【薬屋のひとりごと】後宮の外に咲く毒の華【R指定】
第14章 【R指定】初恋的回忆〜初恋の思い出〜⑤
その平凡が壬氏とはかけ離れていた。
壬氏の平凡は、月娘1人が自分の側に居る事だった。
彼の妃は月娘だけで、月娘が笑いかけるのも壬氏だけ。
そんな平凡を壬氏は思い描いていた。
それは、夏潤が思い描く平凡と似ていたのかもしれない。
変わらないのは、月娘の笑みがただ自分に向けられている。
それだけでこの男達は幸せだったのだ。
だけどそれは2人とも月娘の気持ちを無視したものだった。
だから月娘は、夏潤がどんなに甘い言葉を月娘に囁いてもその心は動かなかった。
壬氏が月娘と自分の為だとその意思を貫いても、月娘の心には響かなかった。
そうして、枋太師が月娘と皇弟の婚約を破棄する事を伝えた時は、壬氏が後宮に宦官にとなって入った2年目の事だった。
先に壬氏との関係に疲れたのは月娘の方だった。
枋太師から婚約の解消を聞いた時に壬氏はこれ以上無いほどの怒りを感じた。
とうてい、受け入れる事の出来ない提案に壬氏は苛立った様に手元にあった竹管を思わず枋太師に投げつけた。