【薬屋のひとりごと】後宮の外に咲く毒の華【R指定】
第11章 初恋的回忆〜初恋の思い出〜②
ただ壬氏と昔みたいに笑い合いたいだけなのに。
いつの間に自分達は、そんな事も出来なくなってしまったのだろう。
どんなに考えても、月娘には答えが出なかった。
「!!」
そんな女官見習い達の前に、宦官を従えた初老の男性が現れた。
それが誰なのか瞬時に分かった月娘達は、慌てて袖で手を隠して頭を下げた。
ー前帝ー。
月娘にとっては会うのは初めてだった。
壬氏の父親で、今は旧後宮に引きこもっていると聞いている。
そんな前帝にこんな場所で会うとは思いもしなかった。
現帝とは何度か会っても、壬氏や帝から、前帝の話が出る事も無い。
そして壬氏や安氏が旧後宮に近寄りもしない事も知っている。
そんな雰囲気から、月娘が壬氏に彼の父親について聞くことも無かった。
こうして頭を下げていれば彼はただ通り過ぎていくだろう。
月娘はそう考えながら、前帝が通り過ぎるのをただ待った。
「………………。」
彼の足跡が自分の前で止まるのが分かった。
その気配に、月娘は一瞬胸が大きく鳴った。