【薬屋のひとりごと】後宮の外に咲く毒の華【R指定】
第11章 初恋的回忆〜初恋の思い出〜②
「……顔を上げろ。」
月娘に聞こえた声は掠れていて、彼の見た目よりもさらに老いを感じた。
月娘はゆっくりと顔を上げた。
前帝は目を細めて月娘を見下ろしている。
彼のそんな目元が、壬氏に似ていた。
月娘は前帝と目を交わしながら、そんな事を思った。
「……こっちへ……。」
そう差し出された手が、何を意味するのか分かっていた。
このまま旧後宮に付いて来いと言う事なのだろう。
周りの宦官や女官達が困惑したようにその様子を見ていた。
その大人の不安そうな目が、余計に月娘を不安にさせた。
だけど誰もその前帝の行動を止める事が出来ない。
月娘は小さく息を吸った。
今、自分に出来る事は、この命令に従う事だけだった。
「…枋大師へ…。」
誰かが枋大師の名前を出した。
その事が余計にこの事態が良い事では無いと、月娘に知らせる。
そして月娘は…。
旧後宮の中に消えて行った。