【薬屋のひとりごと】後宮の外に咲く毒の華【R指定】
第11章 初恋的回忆〜初恋の思い出〜②
「貴方は大分慣れたのね僑香。」
「…まぁ、もっと甘いお顔を拝見してますので…。」
挨拶程度のあの微笑みぐらいではもう動じない。
僑香は壬氏が月娘に向ける顔を知っているから。
月娘にしか見せない壬氏の顔は、特段にキラキラが増しているのだった。
「あ、皇太子殿下がこちらに気が付きましたね。」
僑香の言葉で月娘は壬氏に視線を戻す。
確かに壬氏は月娘を見つけて、ジッとこちらを見ている。
体がモジモジし始めて、隣の女人を放っておいて、すぐにでもこちらに来そうだ。
いや。もうこっちに向かって来てる。
高順の呆れた顔がそれがどれだけよく無い行動かを物語っている。
「月娘。」
「……………。」
ニコニコ笑顔で壬氏は真っ直ぐに月娘の元に駆け寄ってくる。
彼が我慢出来るはずが無いのだ。
壬氏はもう1ヶ月近く月娘に会っていなかったから。
(瑞が犬だったら、思い切り尻尾が振られているわね。)
まるでご主人様を待ち侘びていた犬の様に、壬氏は迷いなく月娘の前に立った。