【薬屋のひとりごと】後宮の外に咲く毒の華【R指定】
第10章 初恋的回忆〜初恋の思い出〜
まだ幼い壬氏はそんな自分の小さな自尊心と。
誰も見つけてくれなかった時や、落ちてしまった時の不安と1人で戦っていた。
「そこで何をしてるの?」
1人で葛藤していた壬氏に声が聞こえた。
壬氏はその時に聞いた声を後に『鈴が鳴った様な可愛い声だった。』と例えていた。
壬氏に声をかけたのは、父親に連れて西宮。
つまり皇太后に初めて会いに来た月娘だった。
鈴が鳴る様な声で自分を見上げる月娘を見て、壬氏は生まれて初めて人に魅入ると言う事を知った。
「………………。」
初めて見る少女に壬氏は目を見開いて、その頬は微かに赤味を帯びていた。
「ねぇ…。何してるの?」
月娘が再度聞いて、やっと壬氏は我に返った。
「ここに隠れてるのだから、話しかけるなよ。」
アレ?何故だろう。
月娘に掛けたい声はこんな言葉じゃないのに、何故か壬氏は素っ気ない言葉しか出なかった。
言ってすぐに壬氏は後悔した。
あの子がこの言葉で何処かに行ってしまったら、もう2度と会えないかも知れない。
名前くらい……知りたかった。