【薬屋のひとりごと】後宮の外に咲く毒の華【R指定】
第9章 花街に毒の花が咲く⑤
「… 月娘…。」
夏潤は月娘に近付くと、顔にかかっている髪を掻き上げた。
そして見えた月娘の目は、夏潤に軽蔑の目を向ける。
今回この男は超えてはならない一線を超えた。
こうして無様にこの男の前でうつ伏せになるしかない屈辱より。
さらなる屈辱を。
壬氏にしか許されない身体にこの男は触れたのだ。
それは到底許せる事は出来ない。
皮肉なモノだ。
どうでもいいと思えていた時は、絶対に他の男は触れなかったのに。
気持ちを固めた今。
そんな決意は簡単に崩される。
そんな月娘の気持ちが込められた目線を向けられていても。
夏潤は笑みのままだった。
夏潤は知っていた。
いつの日にか愛想笑いの奥に、この月娘の感情が込められているのを。
夏潤の 月娘への気持ちは。
飢えの様な渇望にも思えて。
満腹感の様な満たされる思いでもあった。
そしてその欲が今満たされているのかと聞かれれば。
夏潤すらそれは分からなかった。