【薬屋のひとりごと】後宮の外に咲く毒の華【R指定】
第9章 花街に毒の花が咲く⑤
涙で濡れている月娘の頬を掴んで、夏潤は月娘の顔を覗き込んだ。
「いつもの様に皇弟には興味無いと、皇室には入る気は無いと、俺に縋ってみろ。」
月娘は目を薄っすら開けて夏潤を見た。
その顔を見て、月娘は理解が出来なくなる。
何故この男がこんな顔をしているのだろう。
まるで痛みを我慢している様な…。
自分が傷付いている様な。
一瞬、この痛みから逃れるのなら。
いつもの様にやり過ごして、この男が望む言葉を告げる事も頭に浮かんだ。
『…俺はもうはらを決めた。お前はずっと俺の女人だ。何があっても。』
そんな時に浮かんだ壬氏の言葉。
目を見開いても、目の前の夏潤では無くて、あの時の壬氏の顔しか見えなかった。
ずっと壬氏だけが逃げているのだと思っていた。
だけど夏潤の支配から逃げたくて、壬氏を遠ざけていたのは月娘も同じだった。
(ああ…瑞……。私……私も……。)
もうはらは決めた。
月娘は奥歯を噛み締めて夏潤を見上げた。