【薬屋のひとりごと】後宮の外に咲く毒の華【R指定】
第9章 花街に毒の花が咲く⑤
夏潤は、枋太師が描く様な完璧な後継者なのだろう。
側から見ればこの男は、皇室に忠誠を誓い。
どんな戦場にも向かい、確実に功績を積んでいる。
月娘は夏潤の背後を見ながら小さくため息を吐いた。
月娘からすれば、性格破綻者の夏潤だとしても。
それは月娘にだけだった。
枋太師の期待や、世間の評価などは、月娘よりすこぶる高い。
自分の血縁ではなく、亡き妻の血縁をわざわざ後継者にしようとしているあたり。
枋太師の夏潤への信頼は揺るぎないモノだと月娘は思った。
(今じゃ茘国一の将軍様だものね…。)
月娘はフンと鼻を鳴らして夏潤から目を逸らした。
枋太師は夏潤に、奥深い大きな屋敷の離れを与えた。
潜門を抜けて、名木名石で飾られた中庭で、月娘は僑香を振り返った。
「……ここまででいいわ。僑香。」
「月娘様……。」
扇の奥で月娘の目元は笑っていたが、僑香は心配そうに月娘を見つめている。
(…今日はそんなに大それた事はしないだろう…。)
花街で月娘の名前を落とす行動は、夏潤にとっても逆に喜ばしい事だからだ。