【薬屋のひとりごと】後宮の外に咲く毒の華【R指定】
第7章 【R指定】花街に毒の花が咲く③
命令をすればきっと月娘は全てを話してくれるだろう。
だけど壬氏はそうはしなかった。
いつでも目の前に居る女人にはそのままで居て欲しい。
壬氏が求めるのは、いつも同じ目線で隣に月娘だ。
さっきまでの強い口調がまた柔らかくなって。
縋る様に自分の顔に唇を触れる壬氏を見て。
月娘は彼の背中に手を伸ばして抱き締めた。
やっと彼は聞いてくれた。
月娘が起こす騒ぎを、淡々と処理をするのでは無くて。
その心の内に気が付いて、逃げずにそれを聞いてくれている。
それが本当に壬氏が逃げずに向き合おうとしている事が分かったから。
月娘は壬氏を強く抱き締めて、彼の名前を呼んだ。
「……瑞っ…。」
少し涙声に聞こえた月娘の声を聞くと、壬氏はギュッと目を閉じて、同じ位強く月娘を抱き締めた。
散々逃げていた責任だけど。
こうして月娘が腕の中にいるのなら。
そんなに悪い道でも無いかもしれないと。
壬氏は初めて自分の天命をそんな風に思えた。