【薬屋のひとりごと】後宮の外に咲く毒の華【R指定】
第5章 花街に毒の華が咲く
「……俺だって簪を渡そうとしたさ。」
不貞腐れたまま、壬氏はボソッと言った。
しかし、来賓席で月娘を見つけた時にはもう。
月娘は色んな男に囲まれていた。
壬氏が見た月娘は決して浮かれてなんていなかった。
当たり障りなく男達をかわしながら、月娘の目線の先は空席の瑞月の席を目を細めて見ていた。
本当は月娘が瑞月と会いたかった事は分かっている。
簪だって、壬氏から貰いたい訳じゃ無かっただろう。
挿せば良かったのだろうか。
群がっていた男達を蹴散らして、皇室の象徴の龍をあしらった簪をみんなの前であの綺麗な髪に挿せば良かったのか。
「……そんな事出来るはず無いだろう。」
壬氏は高順に聞こえない小さな声でボソッと言った。
自分勝手に月娘から離れて壬氏になったと言うのに。
この姿では嫉妬する事も満足に出来なかった。
最近月娘と夜伽をしてしまったせいか。
瑞月自身の欲望が抑えられなくなった様だ。
壬氏はそれがもどかしかった。