第2章 人形の家
母親は、泣き叫んでいる。
女の子を名前を必死に叫んでいる。
「富子!あぁあ富子ぉ!富子!とみこおぉぉ!」
とてつもない叫び声。
その叫び声から背を向けるように、違う方向へと視線を向けた時だった。
(え……?)
画面が切り替わるように、視界の先には井戸があった。
その井戸の元にあの母親が乱れた髪の毛と着物姿で立っている。
井戸には涙のようなものが落ちていってた。
嫌な予感がした。
思わず結衣と麻衣は、母親の元に駆け寄ろうとしたがそれを腕を引っ張られて止められる。
(ナル……!?)
彼女達の腕を掴んでいたのは、ナルだった。
彼は首を横に振り、それを見た彼女たちは泣き出しそうな表情になった。
その時……。
「富子ーーー!」
一際大きな声で女が叫ぶ。
そちらへと視線を向ければ、女は井戸へと落ちていった。
「麻衣っ!結衣!」
遠くで双子の名を呼ぶ声がした。
薄らと目を開ければ、また名前を呼ばれた気がした結衣は飛び起きた。
「あ、れ……」
隣ではぼんやりとした麻衣が倒れている。
「麻衣っ!!結衣っ!!だいじょうぶなの?なんともない!?」
双子を呼んでいたのは綾子だった。
上を見上げれば、泣き出しそうな顔の綾子がこちらを覗いて叫んでいる。
「あ、綾子!だいじょうぶ!だいじょうぶだよ!」
「ふたりともだいじょうぶ!」
「いま、リンが助けにいくからね!」
そうだ、自分たちは井戸に落ちたんだ。
結衣がぼんやりと思い出していれば、リンが身軽に井戸へと降りてきた。
「お二人共、ケガは」
「ないよ、結衣は?」
「だいじょうぶ、ないよ」
「イスを」
リンが綾子に呼びかけると、彼女はイスをリンへと手渡した。
それに乗った麻衣がまず、綾子に手助けされながら井戸から這い上がっていく。
(……ここに、真砂子が言うには子どもたちの霊がいる。あと、あの女の霊が……)
そう、あの女の霊がこの井戸に身を投げた。
結衣は井戸を見渡しながら、今にも泣き出しそうな表情になっていた。
(おそらく、あの女の子な攫われてしまった。そして戻ってこなくて、あの母親は悲しくて辛くて苦しくて、この井戸に身を投げたんだ……)