第10章 悪夢の棲む家
そんなリンと結衣のやり取りを聞いて面白くなさそうにしているのが法生である。
どうも恋人である結衣とその同僚のリンは仲がよく、結衣も懐いていて面白くないのだ。
(別にやましい関係じゃねぇのは知ってるけどよぉ……。ガキみてぇな嫉妬だな)
やれやれと息を吐き出した時であった。
「きゃああああ!!」
部屋の外から翠の悲鳴が聞こえてきた。
「悲鳴!?」
「今の……翠さん!?」
慌てて双子が部屋から飛びだせば、同じように広田も部屋から飛び出して悲鳴が聞こえたお風呂場へと向かう。
「開けますよ、翠さん!」
「翠さん、開けますからね!!」
広田と結衣が声をかけてお風呂場の扉を開ければ、脱衣所に蹲っている翠がいた。
「翠さん!」
「どうしたんです!?」
二人が駆け寄ると翠は広田にしがみつきながら涙を流して、震える声でお風呂場を見た。
「……誰か……誰か我いたんです。お風呂場に」
すると懐中電灯を持ったナルが入ってくる。
そしてお風呂場という言葉に浴室の扉を開けた。
「──やめて!」
震える翠を抱き締めながら結衣はお風呂場へと目線をやる。
暗くてよく見えないが人の気配は感じない。
「ナル、誰かいる?」
「いや。誰もいません」
「そんな──……さっき確かに見たんです。浴室の中からこっちを窺っていて、戸を開けて出てきて──……男の人でした。手に……鉈を持ってて。血で汚れてて、それを……振り上げて……」
「翠さん……」
震えながら泣き始める翠を結衣は抱き寄せながら背中を摩る。
「広田さん、翠さんを居間へ。ブレーカーを直してますからついていてあげてください。結衣も一緒にいてやってくれ」
「わかった」
結衣と広田は翠を支えながら居間へと向かう。
そして震える翠をソファに座らせると、阿川夫人が慌てて駆け寄って彼女の背中を撫でていた。
暫くしたころ。
麻衣がやって来て居間の電気をつけた。
ブレーカーが直ったようで、部屋に明るい光がともる。
「もうブレーカーが落ちるような事はないと思いますよ」
「……ありがとう」
「それと、申し訳ありませんけど脱衣所にカメラを置きます。お風呂を使う時には切りますので言ってください」