第2章 人形の家
居間にはあの影がいなかった。
つまり、あの影はカメラにしか映らない……肉眼でこの場所では見えないということ。
「と、とりあえず部屋出て、ぼーさん!早く……!」
ぼーさんへと手を伸ばした時、何かがあたしの身体をすり抜けた。
「っ……!?」
ぞくりと背筋が震える。
恐らく、あの影だと本能的に感じた。
ーージャマヲ スルモノハ ユルサナイ……
声が聞こえた。
その途端、首に誰かの手が触れてそのまま首を絞められた。
「結衣!?」
「あっ、ぐ……」
とてつもない力で首を絞められ、息が出来なくなっていく。
「ナウマク サラマンダ バサラダンカン!」
ぼーさんが真言を唱えると、首を絞めていた手が離れていった。
すると息が出来て、思わず咳き込んでいるとぼーさんが駆け寄ってきて、後ろから麻衣が背中をさすってくれていた。
「麻衣まで来たのかよ!だいじょうぶか、結衣?」
「う、うん……」
「とりあえず、ここから出るぞ!」
ぼーさんはあたしを抱えるようにして、居間から飛び出す。
麻衣も後から続いて来たが、その居間から何かが軋むような音が聞こえてきた。
なんだろう。
そう思い居間へと視線を向ければ、何かが割れるような音が響いた。
「ぼ、ぼーさん」
その音にぼーさんと麻衣も居間へと視線を向ける。
「穴が、あいてる……」
居間には大きな穴があいていた。
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ーthird person singularー
翌日のこと。
礼美と典子の元に向かっていた真砂子たちが戻ってきたタイミングで、結衣達は居間に空いた穴の様子を見に来ていた。
穴を覗けば、そこには井戸があった。
見た限りかなり古いものであり、それを覗いていた法生が険しい表情を浮かべる。
「こいつは、井戸をうめた後だな。かなり古いヤツだ」
井戸の先は暗い。
深いのか、底は黒く見えてしまっていた。
それを見ていた真砂子は少しだけ顔色を悪くしており、結衣は『大丈夫?』と声をかけながら背中に触れた。
「……あたくしにはこの井戸が地の底まで続いているように見えますわ。はるか底に子どもたちの霊がよどんでいる……」
「子どもたちの霊……」