第10章 悪夢の棲む家
戸棚にある無線機だ。
それを見た阿川夫人はかなぎり声を出す。
「その無線機も始末してよ。見つかったら大変だわ」
「わかっとる」
「やっぱり最初からあたしの実家に借金をすればよかったのよ。そしたらとっくに隣はうちのものだったのに!」
「──そんなみっともない真似できるか!そもそもおまえの馬鹿みたいな浪費癖がなけりゃ、借金の必要だってないだろうが!!」
「な──」
夫婦の言い争いを横目に、笹倉家の息子が舌打ちをした。
そして苛立った様子で扉を蹴ると鋭い足音を立てながら消えていく。
「……潤!」
冷や汗を浮かべながら笹倉家の主人はソファに腰掛けていた。
……ちくしょう
ちくしょうちくしょうちくしょう!
訴えるだろ?
あの傲慢ちきな女どもめ!
娘が有名大学出の有名企業勤めだか知らんが鼻にかけやがって
俺をたかが中学教師だと思って見下していやがる
だいたい、なんで隣に越してくるのはああいう嫌な奴らばっかりなんだ
『困るんですよ。お宅の屋根が境界線を超えていて──』
そんなの俺のせいじゃない
俺はもともとあった家を買っただけだ
……くそっ
お前らが嫌がっているから出ていきやすいように、わざやざ小細工をしてやったんじゃないか!
あの親子を追い出せば今度こそ隣が手に入るはずだったのに
前の持ち主がさっさと俺にあの家を売っておけば、またこんな思いをする事もなかったんだ
告訴する気はないだと?
わかるもんか
なんで俺ばっかりがこんな目にあわなきゃならないんだ
あんな
あんな連中のせいで──!
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一方阿川家では法生が少し不満そうに呟いていた。
「……俺の出番ってこんだけ?ただ来ただけ?」
「働きたいんなら、これから撤収作業があると思いますよ。それに結衣さんに会えたんだからいいじゃないですか」
「俺、もっと自分を活かせるお仕事がしたい。まあ結衣に会えたのは嬉しいけど」
「何話してんのさ……」
翠達の手伝いを申し出たが、働いてもらっているのに申し訳ないと断られた結衣は法生と安原の言葉に頬をほんのりと赤く染めながら睨む。
「まあまあ、結衣さん。それに滝川さん、腕力を活かせるお仕事じゃないですか。撤収作業」