第10章 悪夢の棲む家
「そんなんじゃやだもん」
わざとらしく法生は泣き真似をしだす。
そんな彼に安原は『可愛く言ってもだめですよ』とほんのりと冷たい声で言い放つ。
「泣き真似をしても同情するのは僕ぐらいだと思いますが」
「まあ!少年は同情してくれるのね」
「同情だけならいくらでも。僕、善意と愛想は惜しまない事にしてるんです」
「こ、こいつ……結衣!?結衣は俺に同情してくれるよな!?」
法生は潤んだ目で恋人である結衣を見た。
そんな法生に結衣は『うっ』と言いながら、困ったような顔をしてしまう。
年上なのに可愛いと思ってしまったのだ。
こんなの誰かにバレたら笑われるか馬鹿にされると思いながら、なんとか顔に出ないようにしながら頷いた。
「ど、同情するよ」
「結衣さん、今滝川さんが可愛いと思ったでしょ」
「俺が可愛い!?」
「思ってないよ!?」
「思ってねぇの!?」
「思って……るかもしれないし思ってないかもしれない!!」
ギャーギャーと騒ぎ始める三人を横目に麻衣が呆れた顔をしていた。
「まあまあ、被害もなく事件が解決したんだからよかったじゃない。ナル、撤収作業をしていいんだよね?」
「──いや、もう一晩様子を見る」
「ええー?なんで?」
「あれ?ナル、帰らないの?なんで?」
麻衣は不服そうに、結衣は不思議そうにする。
そんな双子を気にせずにナルは淡々と答えた。
「釈然としないからだ」
「何が?」
「わからない」
「なん──」
わからないと答えたナルに麻衣が文句を言おうとした時、部屋が真っ暗になった。
どうやらブレーカーが落ちたようだ。
「わっ、真っ暗……」
「ブレーカーが落ちたな。リン、付け替えてくれ。鬱陶しくてかなわない」
「はい」
「あ、リンさんついて行こうか?懐中電灯持っとく係するよ」
結衣はベースの机に置いてあった懐中電灯を手にしながらリンに話しかける。
そして懐中電灯を付ければ、ほんの少しだけ柔らかい笑みを浮かべながら彼女の目の前に立つリンがいた。
「いえ、大丈夫ですよ。結衣さんは危ないですから、ここで待っていてください」
「そう?気を付けてね」
「はい」