第10章 悪夢の棲む家
結衣は翠の言葉に少し救いを感じながらも、法生の横顔を盗み見るようにして見た。
成人した男性と未成年の子供の交際というのはこうも色々言われてしまうのかと溜息を吐き出す。
(子供って嫌だな……)
なんて思いながらも自身も翠達の手伝いをしようとベースを出た時であった。
「結衣」
廊下を歩きだそうとした時に声をかけられる。
聞き覚えのある法生の声に結衣が振り向けば、彼は少し真面目な表情をしていた。
「なあに?ぼーさん」
「あんま、自分が子供のせいだからって責めんなよ?」
「……鋭いねぇ」
「好きな奴には余計にな」
ニヤッと笑いながら法生は彼女の頭に手を伸ばすと優しく壊れ物を扱うかのように撫でてきた。
優しい手の動きと法生の温もりに結衣は目を閉ざしながらも小さく笑う。
「あたし、早く成人したいなぁ」
「そんな慌てなくてもいいんだぜ?」
「でもさ、成人してれば色んな事言われないじゃん」
「別に無視すりゃいいし、言いたいやつには言わせときゃいいんだよ。俺らは別にやましい事してないでしょー?堂々しときゃいいんだよ」
「いふぁい(痛い)」
法生は結衣の頬を摘みながら笑う。
その笑顔を見れば結衣はなんだか自分がクヨクヨと考えているのが馬鹿らしく思えてきた。
確かに言わせたいやつには言わせておけばいい。
やましい事をしてる訳じゃないのだから、堂々としていればいいのだと結衣は自分に言い聞かせた。
「ありがと、ぼーさん」
「どーいたしまして。ただあれだなぁ……人前ではキスできねぇのが問題だな」
「未成年じゃなくても問題だと思うな!?」
「あははは!」
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「……まさか本気で訴えたりはしないだろう」
「わからないわよ、そんな事」
薄暗い部屋の中で三人の人間が蠢きながら言葉を発する。
そこには阿川家の隣人であり、先程話し合いにて問い詰められた笹倉夫人の姿もあった。
「こんな事になったのもあなたのせいよ!大丈夫だなんて言っておいて、訴えられたらおしまいじゃないの!どうするの!?」
阿川夫人の目の前にいるのは夫であった。
彼は苦しい顔をしながらもふと、とある物へと視線を向ける。