第10章 悪夢の棲む家
「それについてはこの家を斡旋した不動産屋から面白い話を聞きました。二十年前の開発当時、ある業者がこの一帯の土地を買収・分割して家を建てて売り出したんです。建売住宅ってやつですね。──ところがですね、それらの家は床は斜めだわ雨漏りはするわ、いわゆる手抜き工事のひどいしろものばっかりだったそうで。笹倉家もこの例に漏れずで家を立て替えたいと思っているそうなんですね。ついでに将来一人息子が結婚しても同居可能なようにしたい、と。だけどそれにはちょっと土地が狭すぎる。じゃあ少し広めの隣を買ったらどうだろう。今の家より広いし、どうせ賃貸だし──という事があったらしいです」
「……なるほど」
結衣は関心してしまっていた。
相変わらずではあるが、安原は調べ物が上手いな……と。
自分ではここまで調べあげることはできないものだ。
「この家の売却の仲介をした不動産屋が賃貸の仲介もしてたんですけど、笹倉氏から何度も購入の申し入れがあったそうです。ところが所有者はずっと売る気がなかった。笹倉氏からの提示額もお話にならないほど安かったというんです。そのうえ笹倉一家はなかなかアクの強い人達のようで」
「……あれはアクが強いなんてもんじゃないだろう」
広田は笹倉夫人の事を思い出した、苦虫を噛み潰したような表情をうかべる。
「まあまあ。そんなわけで所有者と不動産屋の心証があまりよろしくなかったんですね。それでこの家を売却する事になった時、あえて笹倉氏には売らなかったというわけです」
「つまり、その笹倉氏が土地を手放させるために仕組んでるって事か?」
「その可能性は濃厚なんじゃないでしようか」
「しかし、よく調べたな。そんな内部の事情を」
広田も結衣同様に関心してしまっていた。
よくもここまで調べあげたものだ……と。
なんて思っていれば安原は胡散臭そうな笑みを浮かべた。
「つい口が滑るって言うじゃないですか。僕、そういうの得意なんです」
末恐ろしい……広田はそう思ってしまった。
「この家の価格が安かった事に着いては何か分かりましか」
「それなんですが、はっきりしないんですよ。不動産屋の言い分は阿川さんの説明通り、『持ち主が早く売ってしまいたいから』って事なんですが……ただ近所の人によると、ここは人の居着かない家らしいんです」