第10章 悪夢の棲む家
なんて結衣が言ったのと同時にインターホンが鳴る。
暫くするとベースに法生と安原が顔を覗かせた。
「こんばんはー」
「オイッース」
「きみ、この間事務所で会った……ええと」
「安原といいます。先日はどうも」
安原は人の良さげな笑みを浮かべながら、隣に立っていた法生を広田に紹介した。
「こちらは滝川さん。もと高野山のお坊さんです。こちらは依頼者の従兄弟さんで広田さん」
「どーも」
広田は法生がヘラヘラと笑っているように見えた。
どう見ても坊主には見えないし、本業と双子が言っていたがどんな仕事をしているんだやら、うさんくさいのがまた来たと眉を少し寄せながらも頭を軽く下げた。
「広田さん。お茶をください。人数分をここへ」
ナルに指示された広田は文句言いたげにしながらも、双子が『手伝いますから』と宥めてからベースを出た。
「……なんで広田さんがお茶くみなんかしてるんですか?」
「調査を手伝いたいと善意の申し出があったので」
「善意の人間にお茶くみさせるなんて相変わらずだねぇ……」
「そんな事言って、滝川さんもすぐ広田さんには冷たくなるんじゃないです?谷山さんたち双子の話じゃ、大変な否定派らしいですから」
「ああ……結衣に聞いたわ。否定派とは可哀想に。ナル坊にいじめられてさぞかし辛い一日を過ごした事だろーて」
法生の言葉に安原は思わず吹き出し、慌てて咳き込んで笑っていないようにした。
「しっかしずいぶん早く戻ってきたな。葬式の後、半年ぐらいは向こう(イギリス)にいるんもんだと思ったわ。兄ちゃんが亡くなったんだし」
「そうのんびりしてはいられない。オフィスの責任者は僕なんだから。安原さん、お願いしたものは揃いましたか」
「あ、はい。全部」
安原は持ってきた紙袋をナルに見せる。
「んで?なんで俺を呼んだわけ」
「除霊をしてもらいたい」
「お相手は?」
「いない」
「はーあ?いないってどういう事よ」
法生はてっきり相手がハッキリしていんだと思っていた。
なのにいないとはどういう事だと驚いてしまう。
「言葉通りだ。相手はいないができるだけ密教式にそれらしく派手な儀式をやってもらいたい。『除霊をした』という印象を強く与えられるように」