第10章 悪夢の棲む家
「……大丈夫ですか?」
「お母さん、大丈夫ですか?」
双子は直ぐに阿川夫人に駆け寄り、彼女の顔色に眉を下げた。
かなり顔色も悪くて疲れた様子も見られる。
「ええ……いつもの悪戯電話だわ」
「顔色が悪いですよ。少し休んだほうが」
「平気よ。お夕飯の支度に戻らなくちゃ」
「でも……」
顔色の悪いまま動くのは心配。
結衣はやはり休ませようと思い、口を開こうとした時に玄関の方から翠の声が聞こえた。
「──ただいま」
どうやら翠が帰宅したそうだ。
結衣は『おかえりなさい』と言おうとしたが、それより先に阿川夫人が叫んだ。
「……翠、だめ。だめ!翠入ってこないで!だめよ!」
お願いよ
お願い
「このまま出て行って──!」
あの子だけは見逃して──!
阿川夫人はその場に蹲り、声が聞こえた翠が慌てて居間に飛び込んできた。
その後阿川夫人は翠に付き添って貰って休むことになり、双子と広田はベースへと戻った。
ベースでは先程の録音された音が流れていた。
阿川夫人が翠へと叫んでいた言葉が流れている。
それを聞いていた広田は眉を小さく潜めた。
(……確か、ゆうべもおばさんは同じような事を言っていたよな。もしかして悪戯電話の主に『出て行け』と繰り返し言われたせいで、おばさんはこの家から出て行かなきゃと思い込んでしまっているんじゃないのか?)
なんて思いながら録音の音を聞く。
「結衣。ぼーさんは何時に着くと言ってた?」
「ん?夕方には着くって言ってたけど、詳しい時間は言ってなかったよ。本業の仕事が終わって直ぐに来るって」
「……誰だって?」
ナルと結衣の会話に広田が眉を寄せる。
そんなか彼を見た麻衣は『やれやれ』と言いたげに説明をした。
「いつもうちに協力してくれる人に応援を頼んだんです。広田さんの大っ嫌いな霊能者ですけど」
「あんまり突っかからないでくださいね?喧嘩になると面倒臭いから」
「突っかかるって……」
「ああ……でもぼーさんの方が大人かな」
ぼそりと結衣は失礼な言葉を言う。
その言葉に広田は『自分は大人じゃないということか?』と顔を顰めてしまった。
「そろそろ来るんじゃないかな……」