第10章 悪夢の棲む家
双子を見つけた阿川夫人は声をかけ、双子はなんとか声を振る絞って返事をしようとしたが、ある言葉が脳裏に浮かんでなかなか言葉が出てこない。
早く
出て行って
戻ってこないで
(早く返事しないど、お母さんが気にしちゃう……)
声がきゅっ……と絞まる感覚を覚えながら、麻衣がやっとの事で返事をした。
「──お……かえり……なさい……」
「お、おか……おかえりなさい……」
結衣も遅れて返事をする。
そんな双子達に阿川夫人は不思議そうに首を傾げていた。
「どうかしたの?」
「お……驚いちゃって。考え事してかたら……」
「お返事遅くなっちゃてごめんなさい」
「いいのよ。こちらこそごめんなさいね」
「いえ……」
阿川夫人は笑みを浮かべながら居間へと入って行き、それを見送りながら双子は震えていた。
そしてゆっくりと姿見へと視線を向けながら冷や汗を浮かべる。
「ねえ……麻衣。あたし、この姿見……怖い」
「あたしも……あの向こうに……コソリがいる……」
「……コソリ」
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「──コソリ?」
ベースに戻った双子は、直感で思いついた言葉をナルへと報告していた。
そこにはナルに雑用を任されていたのか広田の姿もある。
「それはなんだ?」
「わかんない。とーとつに浮かんだだけだもん」
「そうそう。なんか脳裏に浮かんだ感じかなぁ」
「谷山さんたちまで霊感ごっこか?もう少しマシな子達だと思っていたんだがな」
広田は相変わらず霊感やら霊能力は信じていない為、少し呆れたように双子へと溜息を吐き出していた。
だがそれは相変わらずの事なので双子は無視して、ナルへと視線を向けている。
「どうせ二人揃って起きたばかりで寝ボケたんだろう」
「いーですよ?そう思いたいなら。でもあたしと結衣の寝ボケらそこらへんのとワケが違うんですからね」
「ほう?」
「半覚醒状態の意識をASCとゆってね、変成意識状態と呼ぶの。研究者によっては分離変成意識とゆーけどね」
結衣はここで笑いをとにかく我慢しようとした。
麻衣は素人であるのに、仕入れた知識を自慢げに話すところがあるので結衣はそれを可愛らしいと思って笑いを堪えようとよくしているのである。