第10章 悪夢の棲む家
「……今夜……」
「この像が……」
今夜
ハヌマンの像が
動く
「結構です」
ナルのその言葉を合図に麻衣が明かりを付けた。
「お疲れ様でした」
眩い光に翠は何度か瞬きしていれば、その視界にある物が入る。
それは父親が海外旅行で買ってきたハヌマンの置物であった。
「この像を今夜お借ります。それから二階の四畳半を調査に使いますので入らないでください」
「……ええ……はい……」
様子を見守っていた広田は双子たちの方に身を屈めてから、先程についてのことを聞いた。
「今のはなんだったんだ?」
「暗示実験っていうやつです」
「これ、翠さんたちには内緒にしてくださいね」
「どういう事だ」
麻衣の言葉に広田は怪訝そうにする。
そんな広田に双子は困ったようにしながらも、ここでは言えないからと広田を廊下に連れ出した。
「……さっき二階の部屋に機材をセッティングしたでしょ?あそこにあの像を置いて、今夜あれが動くか試すんです」
「それが?」
「えっと、これRSPKの実験でして。ナル……所長が『今夜あの像が動く』って言ってましたよね」
「あの言葉を暗示で翠さんたちに印象づけて、その通りの事が起こるのかを見るんですよ。でも、実験の目的を本人たちが知ってしまうと効果がないらしいんです」
双子の説明に広田は眉を寄せる。
「……よくわからないんだが」
「えーと……RSPKというのは人が無意識に起こす現象なんです。必ず犯人……って言葉が悪いんですけど犯人がいて、暗示を与えた人がそうだった場合、暗示通りの事が起こるんです」
「今回の事の原因がRSPKなら、誰の無意識で行っているのか……それを確かめることが目的です」
「明かりがついたとき、翠さんたちが像に注目したの気が付きました?」
「そういえば……」
「ああいうふうに対象物に目がいくのは暗示にかかった証拠なんですって。今夜もし暗示通りに起きなかった場合、少なくともこの家の変な出来事に翠さんたちの無意識は関係ないってわかりすよね。こうして考えられる事をひとつずつ消去していくんです」
双子の説明に広田は眉を寄せる。
これは納得していないのだろうか……と結衣は少し困った表情を浮かべた。