第10章 悪夢の棲む家
「しかし、暗示ってのは催眠術みたいなものだろう。危険はないのか?」
「ナルはちゃんと専門家に弟子入りして勉強してますから」
「こういう事件の時には必ずやる実験ですから、心配しないで大丈夫ですよ」
「麻衣、結衣。準備」
「「はーい!」」
説明を終えた双子にナルが声をかけてきた。
「しかし、きみたちみたいな年頃の女の子がよくこんな胡散臭い仕事をする気になるな。しかもあんな上司の下で」
「まあ、これを縁というか……」
「うち、バイト料だけはすごくいいんで」
「若い女の子はわからんな。そんなに金が欲しいもんかね」
「あたしと結衣、孤児で苦学してるんでお金は欲しいですねぇ」
「なので今のバイトはとても助かってるんです」
孤児という言葉に広田は若干目を見張る。
「……す、すまない」
「やだ、謝らないでくださいよ広田さん」
「そうですよ。かえって居心地悪くなっちゃう。あたしこそ余計な事言っちゃってすみません」
「いや、しかし。すまない……」
慌てたように謝罪する広田の姿に双子は顔を見合わせる。
もしかしたらこの人は結構良い人なのかもしれない……なんて思っている時だった。
居間から阿川夫人の悲鳴に近い声が聞こえたのである。
「……誰かいるわ!」
その声に双子と広田は慌てて居間に飛び込む。
「誰かがあそこから覗いてる」
阿川夫人が見ているのはダイニングに繋がる扉。
ナルは無言でそちらへと向かうと扉を開けたが、ダイニングには誰もいない。
「リン。ダイニングのマイクに音が入ってるか?……ああ、わかった」
阿川夫人は怯えたようにしていた。
そんな彼女を抱き抱えるように翠が支え、阿川夫人の背中を結衣が落ち着くように撫でる。
「あちらには誰もいません。阿川さん、今この家には大勢の人間がいて動き回っています。お二人だけの生活に慣れていっらしゃると余計に人の気配や物音が気になるんでしょう」
「でも、さっきまでいたのよ!」
「落ち着いてください。今、家の中には三台のカメラと五本のマイクが稼働しています。侵入者があれが必ずどれかに引っかかる。機械の監視網をくぐり抜けて入ることはできません」
「でも……」
「お母さん、あまり怯えて騒いじゃだめよ?」