第10章 悪夢の棲む家
「仕事のために休業中です。学校には届けてます」
「そうか。俺もしばらく休める。気にしないでくれ」
何があっても手伝う気なんだな。
双子は困ったような表情を浮かべながら顔を見合せた。
だがナルはもう広田をこき使う気満々らしい。
「では、さっそく今夜は一階で休んでいただきます。広田さんが使っている二階の四畳半を調査に使いたいので」
「わかった」
「麻衣、結衣。翠さんとお母さんを居間に集めてくれ。それが済んだら広田さんの部屋に暗示実験のセッティング」
「はい」
「了解です。じゃあ広田さん、お言葉に甘えて遠慮なくさせてもらいますね?」
「そこの機材一式を運んでもらいたいんですけど……」
双子は並んでいる重そうな機材を指さす。
流石の重そうな機材に広田は少し戸惑いながら返事をした。
そしてナルは居間に阿川夫人と翠を呼び、暗示実験を行っていた。
堅い音がなり、ライトが着いたり消えたりする映像をパソコンで流しながら二人に見せる。
「──点滅する光に注目して、リズムに合わせてゆっくりと呼吸してください。体の力を抜いて、ソファに寄りかかってしまっても構いません。ゆっくり……息を吸って……吐いて……」
翠は少し目が虚ろになっていく。
眠たいような、不思議な感覚に陥る気がしていた。
何処から遠くの方から電話の音が聞こえてくる。
電話が鳴ってる
きっとまたあの電話だわ
『はい、阿川です』
やめてお母さん
取らないでって何度も言ってるのに
『やっぱりなんともないですよ。正直困るんですよねぇ、こう何度も呼び出されちゃ。いっそ家電を全部買い換えるなり改築するなりしたらどうです?』
引っ越したばかりなのにそんな事できるわけないじゃない
……どうしてこんな家買っちゃたんだろう
家中の窓が鏡張りなんてどう考えてもおかしいのに
一日中カーテンを閉めっぱなしで
閉じ込められてるみたい
どうして誰もいないの?
やっぱりあのとき反対すればよかった
本当は嫌な予感がしてたの
この家には入りたくないって言えばよかった
ふと、緑の視界に何かが入る。
何か不思議な形をした生き物の置物だ
……何……?
ああ……お父さんの海外旅行のおみやけの
……なんだっけ
確か──
「ハヌマン」
「──動きます……」