第10章 悪夢の棲む家
「あいにく極東の島国の歴史には興味がないんです」
「ああ言えばこう言う……じゃ、シェークスピアの生まれた年は?」
「あいにく禿げたご老人にも興味がないんです」
にっこりとナルは輝いたような笑みを浮かべる。
その笑みに結衣は嫌なものを見るような顔をして、麻衣はその場に座り込みでしまった。
「──それで、次は何をしたらいいですか所長」
「二階のホールにカメラとサーモグラフィーをセットする。それから──」
ナルが言葉を続けようとした途端、部屋の明かりが突如消えた。
「て、停電!?」
一方その頃、二階の和室の阿川夫人を寝かしていた翠と広田が天井を見上げていた。
「いやだ、まだだわ」
「ブレーカー、洗面所でしたよね。見てきます」
「階段が危ないから懐中電灯を持ってきます。お母さん、ちょっと待っててね」
翠と広田は部屋に阿川夫人を残して部屋を出る。
阿川夫人はそんな二人に反応せずに、小さな声でブツブツと何かを呟いていた。
「出て行って、悪い事が起こる前に。そうして二度と帰ってこないで。こないで……コソリ──」
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停電の問題が解決した広田は、翠から貸し出してもらった和室の部屋でパソコンを弄っていた。
そこには調べあげた資料が映し出されている。
『オリヴァー・デイヴィス。イギリスの心霊調査協会、通称SPRに所属する超心理学者』
広田はその情報を見て少し眉を寄せた。
(やはり、それ以上の情報はほとんどない。せめて顔写真のひとつでもあればな……下調べでは確かにデイヴィスという人物があそこの所長のはずなんだが、今のところそれらしき人物の影がまったくない。てことはやはりあのガキがデイヴィスなのか?)
ナルの顔を思い浮かべた広田は更に眉を寄せた。
(……あいつ、デイヴィスの名を出しても動揺すらしなかったな。まさか資料が間違ってるなんて事は──)
広田はスマホを手に取り、とある人物に電話をかけた。
「……ああ、中井。まだ職場か?ちょっと調べてほしいんだが、例の拝み屋の──そうだ。そこの所長の名前、デイヴィスで間違いないか?……そうか。いや、渋谷って小僧にデイヴィスの名前をぶつけてみたんだが、どうにも判断しづらい反応しかなくてな。ああ頼む。俺もまた探りを入れてみる」