第10章 悪夢の棲む家
「……それが泥沼への第一歩だと思いませんか。騙される人はそうやって徐々に嵌められていくんです。この家で何かが起こっているとしたら、それは建物のせいです。霊の仕業なんかじゃない。翠さんたちが駆け込むべきなのは弁護士のところなんですよ!」
広田の相変わらずの物言いに結衣は溜息を吐く。
そんな時だった。
「弁護士に何ができるの」
突然の言葉に全員が声が聞こえた方へと振り返る。
そこには阿川夫人が虚ろな表情で立っていた。
「弁護士や警察や、そんな人達に何ができるの。起こってしまった事を止められやしないじゃないの。死んだ人は生き返らせる事はできないのよ」
「あの……」
「だから危険には近づかない事なの。ここにいちゃいけないわ。お願いだから出て行って。早く外に出て二度と戻ってこないで」
阿川夫人の言葉に沈黙が流れる。
すると翠が困ったようにしながらも、阿川夫人へと近寄る。
「……お母さん、ちょっと休もう?たくさん人が来たから近れちゃったよね」
阿川夫人と翠がベースから出ていき、その後に広田がベースの中のナル達を睨んで出ていく。
暫くしたら階段を上がっていく音が聞こえてきた。
「大丈夫なのかな、お母さん……ノイローゼっぽくない?」
「ノイローゼがどういう症状かわかって言ってるのか?無知な人間が気安く言葉を使うんじゃない」
「……相変わらずの物言いだなぁ。ていうか、広田さんって、なんでナルの本名知ってたのかな」
「確かに。どっかでバレるような事した?」
「さあな。黙っているだけで隠してるわけじゃないから、どこかから漏れる事だってあるだろう」
相変わらず落ち着いているナルに双子は溜息を吐き出す。
「しっかし、広田さんてなんとゆーかアタマ堅い人だねぇ」
「あたし、緑陵高校の松山思い出すよ。あのアタマの堅さと偏見の持ち方とか言い方とか」
「馬鹿はどこにでもいる」
ナルの物言いに結衣は引き攣った笑いを浮かべ、麻衣は眉を寄せた。
「……あんた自分以外の人間は全部バカだと思ってるだろ」
「自分より賢い人間に滅多にお目にかからないもので」
「こんっのナルシスト!」
「ほんの事実認識ですよ、谷山さん」
「たっ、大化の改新が何年かゆってみろ!」