第10章 悪夢の棲む家
「詭弁だな。そうやって俺みたいに幽霊なんぞの存在を否定する人間を煙に巻くつもりだろう。お前たちにとって敵も同然だからな」
「べつに否定派の人間は敵ではありませんよ」
「……なに?」
「特に相手が恥知らずでも、馬鹿でない限り有無を言わせぬ証拠さえ揃えれば納得してもらえるんですから。むしろ根拠もなく心霊現象を崇めたて、何もかも神秘という言葉に負わせようとする変中のほうが厄介なんです。ああいう輩がいなければ心霊研究は五十年分は進歩していた」
「何を──」
ナルの言葉に広田は眉を釣り上げながら、双子たちへと振り向いた。
「……谷山さんたち!」
「「はいっ!?」」
突然矛先が自分たちに向いた双子は驚いた。
「君たちはどうなんだ?幽霊なんてものが本当にいるなんて信じてるのか?」
「あ……あたしたちですか?えーと……」
「あー……えーと……」
助け舟を求めるようにナルを見た双子だが、ナルは知らんぷりを決め込んでいる。
これは助けてくれるような気配はないな……と結衣は溜息を吐き出した。
「えっと……信じてるっていうか……」
「あたしと麻衣はいるんだと思っています。いるんだって知ってるという言い方をしてもいいです」
「でも本当はどうでもいいんじゃないかなーなんて……」
麻衣はそう言ってから慌てて口を塞いだ。
彼女の目線の先には翠がいたからだ。
「ごめんなさい」
「ううん。でもどうでもいいって?」
「んー……と……もし絶対間違いなく見ちゃったとしたら居るんだってわかるでしょ?でも見た事も感じた事もない人は霊とは無縁なわけだし、そういう人にとってはいないでいいと思うんです」
「だが──」
「あたしたち、なんでもかんでも幽霊のせいにしようなんて思ってないです」
「この家に霊がいるかどうかは、それこそまだわかりません。でも何がこの家で起こってるのは確実でしょう?原因を徹底的に調べることは悪い事ではないと思うんですが……」
結衣はチラリと広田を見る。
彼は少し眉を寄せていて、声荒らげて反撃してこようという気配は感じ取られなかった。
そんな広田に翠は困ったように笑う。
「……私だって無条件に信じてるわけじゃありません。あくまで調査をお願いしただけですから」