第10章 悪夢の棲む家
「値段もとても安かったし、何か曰く付きなんじゃないかって心配だったんですけど、母が気に入っていたので購入を決めました。でも暮らし始めてすぐ変なことが起こるようになって……とにかく電化製品が次々故障するんです」
結衣という少女は頷きながら調書に何かを書いていく。
それを広田はじっ……と見ていた。
「電話には雑音が入るし、テレビはノイズがひどくて画面も音も途切れがちになるし。何度修理に出してもまた壊れてしまうんです。何よりブレーカーがしょっちゅう落ちるので、何かのスイッチを入れるたびにびくびくしてしまって。それに加えて梅雨に入ってからは、雨漏りがひどくなりました」
翠は和室の天井を見上げて眉を寄せた。
『……またシミが増えてる。あの業者手抜きしてるんじゃないの?』
そんな彼女の後ろで母は宥めるように言った。
『仕方ないわよ。古い家なんだから』
『いくら古くたって修理した傍から雨漏りするなんておかしいでしょ。ちゃんと直してたらこんなにあちこちシミやカビだらけになるわけないじゃない』
『……なんだかこのごろ家の中で変な臭いがするのよ。何かが腐ったみたいな。湿気のせいかしら……』
母困ったように呟いた。
そんな母を見て、翠は確かに家の中が変な臭いがするなと思っていたのだ。
「だけどどこを探しても臭いの出所がわからないんです」
「俺は建物に問題があるんじゃないかと言ったんだが……」
「私も最初はそう思いました。安かったのはそのせいだって。でも……梅雨の終わり頃から母が妙な事を言い出したんです」
外も明るい時、母は慌てたように雨戸も閉めてカーテンも締め切ってしまったのだ。
その事に翠は眉を寄せて振り返りながら母に声をかけた。
『もう雨戸閉めちゃうの?まだ外も明るいのに』
だが母は返事もせずにカーテンを握る。
『お母さんってば!締め切ったら暑いじゃない。臭いだってこもるし』
『……だって……嫌なのよ。なんとなく』
『嫌って何が?』
『……誰かが覗いてる気がするんだもの』
母の言葉に翠は困惑した。
『え……?』
『このごろ窓がちょっと開いてても、カーテンに隙間があっても、なんだか外から監視されるような気がするのよ』
母は少し冷や汗を浮かべながら、カーテンを強く握りしめていた。