第10章 悪夢の棲む家
母親が電気を付けた為、翠は眩しく感じながらも瞬きをする。
すると奥で何か揺れて驚いてそちらを振り向くと、そこには大きな鏡があった。
『なんだ、鏡……』
鏡に映る自分が揺れたのが見えただけ。
翠は息を吐き出しながら部屋の中に入ると、母親は庭に繋がる窓を開けていた。
『ね、築二十年とは思えなくらい中も綺麗でしょう。広さも二人暮しには十分だし。元の持ち主さんがずっと貸家にしてたのを自分が住むために改装したらしいのよ。それが急に遠方の息子さんと同居する事になって手放す事にしたんですって』
母の説明を聞きながら、翠は近くのカーテンを開けて目を見張った。
『……なんでこんなところに鏡があるの!?』
カーテンを開けた先は窓ではなく鏡。
自分の姿がはっきりと映っていた。
『ああ、それね。私も初めて見た時びっくりしたわ。でもちょっと洒落てると思わない?』
『どこが?変よ。だってこれ窓でしょう?』
翠は母の言葉に呆れ気味に言いながら窓を開けて、驚愕してしまった。
窓を開けた先はすぐに隣の家の窓があったのだ。
目と鼻の先にである。
『……あきれた。この家違法建築じゃないの?しかもこの窓!』
『おもしろいでしょう。ここほかの部屋も全部そんなふうなのよ』
『……嘘でしょう。家の窓全部?』
慌てて翠は走って家の中を確認した。
するとどの窓もガラスではく鏡になっていて、気味の悪さを感じてしまう。
『……なんなのこの家──気味が悪い……』
『でも居間と二階のベランダ側の掃き出し窓は普通のガラスだったでしょ。それに三方がほかの家に囲まれちゃってるし、どうせ窓なんか開けられないわよ』
『……お母さん!本当にここでいいの!?賃貸じゃないんだから嫌になったら引っ越すってわけにはいかないのよ?』
『でも何軒か見た中でここが一番条件がいいのよ』
『だけど──……』
ふと、翠は玄関に入った時の感覚を思い出した。
『……ねえ。お母さんはここの玄関に入った時変な感じがしなかった?』
『変ってどんな?』
『どんなって──』
翠が感じた違和感。
それは『どうして誰もいないの……』というものだった。
「──とにかく、私は気が進まなかったんです」
翠は顔色悪そうに俯き話ながら、それを少女たちは少々心配そうに見ていた。