第9章 忘れられた子どもたち
月明かりの中を歩きながら森林を抜けて、あのダム湖へと辿り着いた時あたしはその足を止めた。
「ナル……」
ダム湖のところにナルが立っていた。
彼はあたしがいるのに気が付いてこちらを振り返り、ただ無表情でそっぽを向く。
相変わらずだな。
そう思いながらあたしは溜息を吐き出して、ナルの隣に立った。
「麻衣から話、聞いたんだ。あたしと麻衣の夢の中に出てきていたのはナルじゃなくてジーンだって」
「ああ。あのバカ、霊媒のクセに道に迷ってるんだ」
「お兄さんに馬鹿って……」
「指導霊を気取って、お節介をして……お前は面倒臭いと思わなったか?嫌な夢を見せられて」
「怖かったけど、とくに嫌とか面倒とかは思わなかったよ。みんなの役に立てたからね」
ナルは呆れたように溜息を吐き出す。
そんな彼にあたしは苦笑いしながらも、夢の中に出てきたジーンを思い出した。
「……素敵に笑う人だったよ。優しい人なんだね、きっと。あたしと麻衣が少しでもナルの役に立てるように指導してくれたんだよ」
「流石双子と言うべきなんだな。麻衣も同じことを言っていた」
「……ナルが双子とは思わなかった。あたし達と一緒だったんだね。麻衣に聞いたけど、それでバイトさせてくれたんでしょう?」
「『同病相憐れむ』だ。結衣と麻衣の学校の校長から、お前たちが孤児だと聞いてな」
あの校長、お喋りだよな。
あたしはやれやれと思いながらも、校長が話してくれたおかげでバイトが出来たんだなと一応感謝することにした。
「助かったよ、すごく」
「……ああ」
「……もう、ジーンとは会えないだろうね」
「麻衣にも言ったが、二百年経てば会えるだろう。お前たちは長生きするだろうから」
「馬鹿で単純マヌケだから?」
「よくわかってるじゃないか」
殴ってやろうかと思ったが、あたしは握りしめた拳を何とか落ち着かせて降ろした。
「イヤでも会うことになるさ」
「そーだね……。そういえば一つ聞きたいことがある」
「なんだ」
「麻衣が泣き腫らして帰ってきたけど、あんたが原因?」
「……ああ」
「何言ったか聞いても?」
「麻衣が好きだと言った。だからぼくが、それともジーンがと聞いた」
やっぱり殴るべきだろうか。
あたしはナルを睨むと彼は肩を竦めた。