第9章 忘れられた子どもたち
一時間したぐらいだろうか。
泣き腫らした顔をした麻衣がバンガローに戻ってきて、ナルのお兄さんの遺体が見つかったと告げた。
同時に夢の話を麻衣はあたしも綾子と真砂子にした。
あたしと麻衣の夢の中に出てきていたのはナルではなく、ナルの双子のお兄さんのユージンということを。
「あたしと結衣には先天的な霊視の才能があるらしいの。それを見込んで傍について才能を引き伸ばす役をかって出てたらしいの」
麻衣が話していく間にあたしは驚きながらも、妙に納得している自分がいた。
夢の中に出てきたあの人はナルのようには思う無い所があったのだ。
何度も何度も別人のようだと思っていたが、やっぱりそうだった。
彼は無表情にしていればナルも見分けがつかない双子だったと麻衣が言った。
「ナルとジーンにはホットラインってのがあったらしいよ。意識と意識の間に直通の。テレパシーみたいなものかな?でも兄弟以外の相手には役に立たなかったけど、あたしと結衣は繋がったらしいの。あたし達に中継して、ナルがサイコメトリした内容をあたしと結衣はみた」
ジーンがナルの手助けになるように、あたしと麻衣に夢を見せていたのだろう。
ジーンはとても弟思いの人なんだと思いながらも、あたしは何も言えずにただ黙っていた。
真砂子は、彼女は励ましに来てくれたのがナルではなくジーンだと知って複雑そうだった。
それもそっかと思いながらも夜が更けていった……。
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「……寝れない」
ジーンの話を聞いたせいなのか、あたしは眠りにつくことが出来なかった。
そして時折聞こえてくる麻衣の押し殺す泣き声で眠ることが出来ない。
(そうだよね……麻衣はずっと夢の中のナルだと思っていた人が好きだった。でもそれはジーンだった)
遺体が発見されて家に帰ることが出来るなら、ジーンはもう夢の中に出てこないだろう。
もう彼と会うことはない。
(寂しいな)
そんなふうに思いながら、あたしはゆっくりと起き出してから未だに布団を被って押し殺して泣いている麻衣を見た。
彼女の頭を撫でようとして伸ばした手を寸前で止め、あたしは立ち上がるとバンガローを抜け出す。
外は夏にしては涼しかった。
頬を少し冷たい風が撫でていき、あたしは深呼吸をして歩き出す。