第9章 忘れられた子どもたち
「──こちらから一つお願いをしてもよろしいでしょうか」
「なんだえ?」
「どうかナルのことは秘密にしておいていただきたいのです」
リンさんの言葉にまた沈黙が流れる。
だが沈黙を破ったのはぼーさん。
「……了解」
「でも。ねぇ、そんなに神経質になるようなこと?今どきテレビに出てる超能力者なんて珍しくもないじゃない」
確かにそうである。
今どき超能力者なんて珍しいわけじゃない。
それなのに何でそこまでして隠したがるんだろうか。
「マスコミというのは貪欲ですから、節操も節度もない。面白おかしく脚色されて愉快なはずないでしょう」
「それはそうだけどお!」
「サイコメトリの能力者はおそらく全てのサイ能力者の中でもっとも不自由です。マスコミはすぐに飽きるでしょうが、そうでない人達もいる。日本に来る前、いったいナル宛に一日何通の手紙が来ていたか分かりますか?」
「手紙?」
「多いと五十、少なくて二十。その全部が救済を求めるものです。失踪した近親者を捜してほしいと。捜して生きていれば問題はないのですが、死んでることも多い。手紙を寄越す人はほとんどが何処かで生きていてほしいと切実に願っているものです。そういう人たちに死んでいると伝えても、恨まれこそすれ感謝はされない」
「……そうかもしれないね……」
リンさんの言う通りだ。
生きてれば感謝はされるが死んでいると聞かされ、感謝する人なんてはいない。
「しかもナルは優秀すぎる。捜している人物が死んでいたとして、それをたんに情報として知るだけならよいのですが、対象との同調が激しいとあたかも自分の体験のように感じるらしいので」
「──それって、いつか結衣と麻衣が夢に見た……」
美山邸の時、あたしと麻衣は自分が殺される体験をした。
あれをナルも体験したことがある……ということだろう。
「酷い場合には実際に怪我をすることもあるのです。暗示効果の一瞬だと思うのですが」
「そ、そんなことがあるの!?」
「ええ。透視によって同調している人物が怪我をした同じ場所に酷い痣を作ったり、酷い麻痺が出たりする……ですからナルはよほどの場合でないとサイコメトリをしません。手紙を全部開封せずに返送していました」
「……そりゃあ、マスコミから逃げ回るはずだわな」