第9章 忘れられた子どもたち
「……なるほど。商売っけがないのも当たり前だ。『SPR』の分室じゃ商売は出来んもんなあ。じゃ、分室ではナル坊が上司?」
「はい。一応ナルが分室長ですから」
「ナルのほうが年下なのに!?」
そういえばナルはリンさんより幾つも年下だ。
普通ならば年上のリンさんが分室長になるもんじゃないか……と思うものだ。
「年齢は関係ありません。ナルのほうが実績もありますし研究員としては古株ですから」
「そんなもんなんだ……あれっ?じゃあナルって今学校はどうしてるの?まだ高校生でしょ?」
「大学生です。いまは休学中ですが」
「大学生!?」
「十七歳で!?」
飛び級ってやつだろう。
あたしと麻衣は頭を抱えながら馬鹿にされる理由をなんとなく分かった気がした。
頭の出来が違うのだ……飛び級で大学生になれる頭なのだから。
(頭が良いわけだ……)
馬鹿にされても仕方ない気がした。
いや、仕方なく無いと思いながらあたしはのろりと俯いていた頭を上げる。
「ついでにいくつか質問しても?」
「わたしにお答えできることでしたら」
「国籍はイギリス?」
「ナルですか?そうです」
「『ナル』ってのはアメリカ風の発音だと聞いたんだが」
「ナルは八つの頃までアメリカにいましたので」
「じゃ、ご両親は日系人?」
「デイヴィス教授は生粋のイギリス人ですね。ナルとユージンはそもそも養子ですから。孤児だったんです、二人は。それをデイヴィス教授が養子になさった」
驚きで息が出来なくなるかと思った。
ナルが孤児だったなんて思ってもいなくて、予想もしていなかったことだったから。
「そもそもナルという呼び名はユージンだけが使っていたんです」
ナルはあたしと麻衣と同じで兄弟がいた。
だけどたった一人の血の通った兄弟を亡くした……。
(たった一人の血の通ったお兄さん……)
皆は黙ってしまっていた。
なんて言葉を言えば良いのか分からなかったのだ。
「──あの」
長い沈黙の中で麻衣が言葉を発した。
「それじゃ、お兄さんの遺体が見つかったらナルはイギリスに帰るんだよね。それでオフィスを閉めるって言ったんだ。なんか、やっと納得できたかも」
そうだ、これでやっと理解出来た。
真砂子が二度と会えないかもっていう言葉の意味も全て……。