第9章 忘れられた子どもたち
「どっかの学校の事件でも教室を歩きながら唐突に『降霊会しなかったか』だの」
「緑陵高校ね、安原さんの母校の」
「そう。真砂子のクシの件なんかも考え合わせていくと、どうもサイコメトリもしくは過去視(ポスト・コグニション)の能力者くさい。おまけにいつぞやの『偽デイヴィス事件』」
「あ、ナルのお師匠さんの……えっと森さん?が依頼人だったあれ?」
何時ぞやの美山邸事件。
あの時はデイヴィス博士の偽物がいるから調査してほしい……という依頼だったと思い出す。
「そ。なんであんなことをやる必要があるわけ?それもナルと森さんが『SPR』の関係者ならなんとなく納得がいくんじゃねぇの。ま、そんなふうに一旦怪しいと思うとあれもこれも……ってわけ」
「へええ」
「ただなー。どうしても『ナル』ってのがなんの愛称なのか分からなくてさ。そんで少年とジョンに聞いてみて、ようやく分かったわけ」
「その気になって考えてみると怪しいことだらけなんですよねぇ。ぼくらもよくもまあ、今日まで引っかかってきたというか。この件については谷山さんたち双子を恨みます」
「あ、あたし達!?」
「なんでぇ!?」
あたし達は何かしただろうか。
急に恨むと言われて驚いていれば、安原さんはにっこりと微笑んだ。
「『ナルシストのナルちゃん』っていうのがあまりにハマってたんたで、さして疑問に思わずうっかり真に受けちゃったんですからね」
それはあたし達のせいだ。
あたしと麻衣は土下座してから謝ってしまった。
「ということで、問題ないのかな?リン」
「なさそうですね」
リンさんは微笑んでいた。
あの美山邸の事件からやっぱり彼はあたし達の前で笑うようになってくれたものだ。
「一つ聞きたいんだが、なんだって事務所をかまえる必要があったんだ?」
「──ジーンを捜そうにも手がかりは殆どない状態で……」
「ジーン?ユージンの愛称?」
「はい。彼を捜すのに時間がかかることは目に見えていました。まさかイギリスから通う訳にもいきませんし、どこかに足場を確保する必要があったわけですが、どんな事情にしても資金の問題がつきまといます。個人的に滞在するのには限度がある。それで取り敢えず分室を置くことにしたんです。日本における心霊研究の現象と心霊現象を調査するという名目で」