第9章 忘れられた子どもたち
今までの違和感が脱ぐわれていく気がした。
ぼーさんの説明が、あたしの中の違和感と疑問を消し去っていくのだ。
「するとだ。ナルがここの風景を知っていて地名は知らなかったというのも説明がつく。ナル坊はサイコメトリしたんだ。ヴィジョンとして兄貴がここに投げ込まれたのは目撃したが、それ以上の情報がなかった。それで実際に訪ねてみるしかなかったわけだ」
「……もしかして、いつかの調査で真砂子のクシを持ってたのも?」
「あれは、ナルがサイコメトリするため……?」
あたしと麻衣の言葉にぼーさんは頷いた。
「だろうな。真砂子が無事かどうが──ひらたくいやあ生死を確認するために持ってたんだろ。……真砂子ちゃんにゃ残念なことだろうが」
真砂子を見ると彼女は少し俯いていた。
眉をほんの少し下げて、まるで泣くのを我慢しているかのような表情だった。
「……そういう事だというのは存じ上げてましたわ」
「で、でもなんで真砂子はナルのこと知ってたの?」
「あたくし、ビデオを見ましたから。アメリカの『ASPR』に招かれて行った時に」
「ビデオ──ってあの有名な?」
ぼーさんは興奮したように飛びつきそうな勢いで聞いた。
「ええ」
「ビデオって?」
「ほら、前に話したろう?デイヴィス博士が以前PKの実験をした事があるって。それのビデオがあるんだ。非常に厳密な実験で……」
「ああ!」
「五十キロのアルミニウムの塊を壁に叩きつけた?」
そういえばぼーさんはデイヴィス博士のファンだ。
今も目を輝かせているのであたしは苦笑を浮かべてしまう。
「そのビデオってのが門外不出の代物で、大きな心霊関係の研究所なんかじゃなきゃ手に入らないわけ」
「ちょっと印象的なものでしたから、記憶に残っていたんですわ。ですからナルに会った時どこかで見た顔だと思って……」
「だからあの時、会ったことがあるかって聞いたんだ?」
「あの事件のあと思い出したのですわ。それでナルに言ったら秘密にしておいてほしい、と」
それで真砂子はそのネタを脅しにナルとデートをしていたのか……とあたしは引き攣った笑みを浮かべる。
「……さてはそれをネタに脅したな」
「あら、なんのことですかしら」
やっぱり脅したな。
強かだなとあたしは溜息を零した。