第9章 忘れられた子どもたち
「教えてやりなよ、ジョン」
ぼーさんの言葉にジョンは少し戸惑ったような、困ったような曖昧な表情を浮かべる。
「……Noll(ナル)でしたらOliver(オリヴァー)……オリヴァーの愛称でおます」
「オリヴァー……」
「『SPR』のオリヴァーさんだ。一人いるだろう。身分を隠さなきゃならないような大物が」
ぼーさんとジョンの言葉を噛み砕くように、溶かすように理解しようとしてあたしは目を見開かせた。
(オリヴァー……SPRのオリヴァーって……)
一人しかいない。
美山邸の時に偽物がいて、ぼーさんやジョンに綾子が盛り上がっていた人物。
「デイヴィス博士……?」
麻衣の呟きに沈黙が流れる。
「オリヴァー・デイヴィス博士……」
今、目の前にいるナルがSPRの大物である『オリヴァー・デイヴィス博士』。
それがイマイチ信用できないような……驚きと困惑であたしはナルを見た。
「──そう、なの?」
麻衣が恐る恐ると聞くとナルは瞳を閉ざした。
「返答の必要があるとは思えない。十五分は経過しましたが」
「あ」
ナルはそう言うとバンガローを出ていった。
「……ここでそらっとぼけるか、ふつー」
ぼーさんは悔しげに言う。
するとそれまで静かに聞いていたリンさんが言葉を発した。
「ナルは『返答の必要がない』と言ったでしょう。ここまできたら返答の必要はないだろうと言うことです」
微かにリンさんは笑っていた。
少し困っているようなそんな感情も見える。
「……じゃ、やっぱりナルはデイヴィス博士なの……?」
ぼーさんは少し息を吐き出しながら頭をかいた。
「──オリヴァー・デイヴィスは『SPR』所属の超心理学者。若くして超心理学博士号を取得した気鋭の研究者だ。ほとんど表舞台に登場しない為にプロフィールははっきりしない。かろうじてサイコメトリの能力があり、強いPKの保持者であることが知られている。兄弟がいるのもたしかだ。優秀な霊能者でユージン・デイヴィス。このユージンが極東の島国で消息を絶った。デイヴィス博士は兄弟を捜すために来日する。マスコミに知られると大騒ぎだろうさ。テレビだ雑誌だ行方不明者の捜索だなんだ──とやかましく付き纏われるのは目に見えてる。それで彼は身分を隠す」