第9章 忘れられた子どもたち
「えっ!?」
「な……なななななんで?ねえ、なんで!?」
「なんでそれで身元を隠す理由がわかるの!?」
あたしと麻衣の反応にぼーさんは楽しげに笑う。
「こいつは結衣と麻衣に『ナル』と呼ばれて『呼び捨て』という言葉を使った。ここまでの仮定が正しいとしてこいつが日本人じゃないとするとだな、これにも一つの解釈が成り立つ」
「ど……どんな?」
「ヒント。『SPR』『ナル』」
ぼーさんのヒントという言葉に眉を寄せる。
二つの意味が何なのかと頭を動かすが、どうにもあたしの脳じゃ分からない。
それはあたしだけじゃなくて麻衣もらしく、同時に叫んだ。
「「わかんないよ!」」
「あ、やっぱり?」
分かってるなら最初からもう少しわかるヒントを寄越せ。
あたしは怒りながらぼーさんを睨むと、彼は『ごめんごめん』と笑うだけ。
「んじゃ、ヒントその二。トムは男の名前だが愛称でもある。なんの愛称だが知ってるか?」
「……なんでいきなり英語の試験ー?」
「ここに来て英語の授業は嫌だよ……」
「いいから答えて」
「えーと、──ト、トーマス?」
「正解。マイクは?」
「マイケル」
「トニー」
「えっと……あ!アンソニー!」
「よしよし」
あたしと麻衣は悩みながらも交互に答えていく。
「今度はちょっと難しいぞ。ディック」
「うっ……」
「ディック!?」
ディックはなんの愛称だと頭を悩ませる。
あたしと麻衣も分からずに唸っていれば、綾子が答えた。
「リチャード」
「OK。では──ナル」
「え?」
「ナル……?」
「ナル坊を例えばイギリス人だと仮定する。つまり英語圏の人間だと。するとだな、兄弟でも大概名前を呼び捨てにする。ま、呼び捨てにされることに耐性があるんだな。じゃ、ごく親しい人間が呼び捨てにしたいような場合はどうするのか?」
「……それが愛称ってやつ?」
「そういうことだな。ナル坊はほとんど初対面に近いお前ら双子から、ごく内輪の人間しか使わないである愛称でいきなり呼ばれたんで言ってしまったんだ。『呼び捨てにした』ってな」
「そうだったんだ……でも『ナル』って?」
「ナルはなんの愛称なの?」
ナルというのはなんの愛称なのかは知らない。
聞いたこともなければ教えてもらったこともないので分からない。