第9章 忘れられた子どもたち
ぼーさんの言葉を理解しようとするが、難しくて頭が爆発しそうになる。
それこそ頭から湯気が出ているんじゃないかと思うぐらいだ。
「……結論を言うとだな。あのオフィスの正式名称は『SPR』のほうじゃ?ってことさ。更に言えば『渋谷サイキック・リサーチ』って名前には意味はなくて、略した言葉が『SPR』になりさえすればなんでも良かったんじゃないのか?たまたまオフィスのある場所が渋谷だから、渋谷にしたんじゃないかって話。どうだい?」
ナルはぼーさんの言葉に笑みを浮かべる。
「──仮にそうだとしても、手紙の宛名が『SPR』でも麻衣と結衣から隠す必要はないと思うが?」
「『SPR』ならね。でも他の名前が書いてあったら?『SPR』ってのはもちろん略称だ。じゃあなんの略称なのか?そうだな──たとえば『シマウマ・パンダ・ラッコ』だとしよう。そうして手紙の中に略称ではなく、正式な名称のほうが来たのものがあったとしたら?宛名が『シマウマ・ラッコ・パンダ』だったら、結衣と麻衣だって不審に思うんじゃないか?」
「お、思う思う」
「不審には思うね……」
あたし達の言葉を聞いて、ぼーさんはまたニヤリと笑う。
そして自身の膝を叩いた。
「さあてお立ちあい!この『SPR』ってのと異常に高価な機材。ナルが日本人じゃないらしいってのを混ぜて、シャカシャカ振ってやると一つの答えが出るんだよ」
「──あ!」
「そう。『Society for Psychical Research(ソサエティ フォー サイキカル リサーチ)』。イギリスにあるもっとも古い権威ある心霊調査団体だ。『渋谷サイキック・リサーチ』ってのは世を忍ぶ仮の姿。実はあのオフィスは『心霊調査協会』の日本支部なんじゃねえのか?」
ソサエティフォーサイキカルリサーチ。
イギリスの心霊調査団体……その言葉にあたしは目を見開くことしか出来なかった。
「もしもナルが『心霊調査協会』の正式な調査員ならあの機材にも説明がつく。ありゃ『心霊調査協会』のものさ。ナル個人のもんじゃない。しかもこの仮定にはもう一つおまけがつく。ナルが『SPR』の人間だとすると、なぜ偽名を使って身分を隠すのかってのにも想像がついちゃうんだなあ」