第9章 忘れられた子どもたち
「それは何故か。郵便物の場合、宛名やリターンアドレス、そういうものの中に知られたくない情報が含まれている可能性がある。だから隠すんじゃねぇの?」
「そっか!『渋谷一也』が偽名としたら、宛名に本名が書かれてたらアウトよね」
「──と思うだろ?ところがあそこはオフィスだ。基本的に郵便物は『渋谷サイキック・リサーチ』宛にくるだろうな。ナル個人宛ではなく」
「なら隠さなくてもいいじゃない」
「そこでおれはつい想像をたくましゅうしちゃうわけ。例えば手紙の宛名が違っていたら?」
「へ?」
「は?」
手紙の宛名が違うとはどういう事だ。
あたしは眉を寄せてぼーさんを凝視していれば、彼はニヤリと笑うだけ。
「『渋谷サイキック・リサーチ』という事務所も偽名だったとしたらどうだ?」
「そっ……だって事務所名が違ってたら郵便物が届かないでしょ?」
「それがそうとも限らねえんだな。『渋谷サイキック・リサーチ』という事務所名がある。同時に『SPR』という略称も存在する。けどどっちが正式の名前なんだろうな?」
「……意味がわかんない」
「うん……意味がわからない」
頭がおかしくなりそう。
あたしと麻衣は理解出来ずにぼーさんに助けを求めるような視線を向ける。
「いいか。事務所を開くには登記っていう届出をする必要がある。そこで使われている事務所名はどちらなのかってことさ。郵便物なんてのは結局どんな名前でだって届くんだよ。より確実にしたきゃ表札さえ郵便受けに出してりゃいい。だからといって『田中サイキック・リサーチ』と登記してあるものを『渋谷サイキック・リサーチ』と看板をだす訳にもいかんわな」
「そ、そういうもんかな」
「もんなの。けど『渋谷サイキック・リサーチ』と登記して『SPR』と看板をあげてもさほど問題はないだろう。逆もまたしかり。横に『Shibuya Psychic Research(シブヤ サイキック リサーチ)』と書いておけばさ。とするとどちらが正式な名前なんだろうな。これについても黙秘かい?」
ナルは相変わらず黙り。
「……やっぱりよく分かんない。結衣、分かる?」
「……分からない」
「つまり『SPR』は『渋谷サイキック・リサーチ』の略じゃなくて、むしろ『渋谷サイキック・リサーチ』が『SPR』をひらいた形なんじゃないかってこと」
