第9章 忘れられた子どもたち
「──で、でも……だって……」
「日本人に見えて日本語が喋れるからって日本人とは限らないさ。リンがいい例だろ。そう考えると、だ。学校に行ってないわけもわかる。ホテルに住むぐらいなら転校手続きなんてとっちゃいないだろうしな」
「──じゃ、リンさんと同じ中国の人?」
黒髪黒目なら中国の人の可能性が大きい。
リンさんもそうだし、向こうの人は日本人と同じ容姿をしていることもある。
「おれも最初はそう思った。それでもナルという名はあまり考えられんわな。それについちゃ本人に聞くのが早い。──生まれはどこだい?ナル」
ナルはぼーさんの問に答えない。
ただ薄く笑みを浮かべていて、何も言わないのだ。
「……あくまで黙秘か。じゃ、勝手にどんどんやっちゃうよおれは。つぎ行こう」
「つぎぃ!?」
「まだあるの!?」
「そ。もう一つ猛烈に不思議だったのは、あれだけの機材をどうやって手に入れたのかってことなんだ。総額でいくらだと思う?」
「さ、さあ?」
「億のケタだろ、たぶん」
「億!?」
思わず叫んでしまった。
今まで触っていた機材たちの総額が『億』だなんて思ったことなかった。
高い機材なんだろうな……とは思ってきた。
だけど総額なんて考えたこともない。
「いくら金持ちの御曹司だろうと、十七のガキが手にいれられる額じゃねぇ。これは聞いたら教えてくれるかな、ナル?」
「……滅多にないぼーさんの見せ場を横取りしちゃ悪いだろう」
「言ってくれるな。そんじゃもう一つ。あの事務所は本当にナルの持ち物なのかって問題。ビルの管理会社やら口座や、事務所の所長が未成年で納得するもんかね?それに結衣と麻衣のこと」
「あたし達?」
「バイトである双子に何故電話番や郵便の仕分けをやらせないのかってことさ。本来そういうのが雑用係の仕事だろ?なのに郵便物にしても双子に渡されるのはリンが選抜してからだ。だよな?」
「う、うん」
「そうだよ……」
リンさんが選別しないと触らせてもらえない。
何故かと聞いても『いいから』と言われて、有耶無耶にされた事を覚えている。
「まるで他人を郵便物や電話から遠ざけようとしてるみたいじゃねえ?」
「……確かに」