第9章 忘れられた子どもたち
「家でもなきゃ、下宿でもアパートやマンションでもない。ホテルなんじゃねぇの」
ホテルという言葉にあたしと麻衣と綾子は目を見開かせる。
「住んでる場所がホテルだとしたら電話番号を教えるのはマズイよな。フロントが出ちゃうからさ。フロントに話を合わせてもらうのは難しそうだしなぁ。個人の電話を引かせてくれるところもあるが──まあ、取り敢えず切実に必要でないから番号を隠しておく方が話が早い」
「で、でもなんでわざわざホテルなんか。オフィスに通うなら家から──……って、もしかして──」
「そう。ナル坊は東京の人間じゃない。兄貴を捜してたと言ったな?こいつはおそらくその為に東京にきて取り敢えずホテルに入ったんだろう。まさかこんなに長い時間がかかるとは思わなかった。だからちゃんと住まいを探す気がなかった。──違うか?」
「返答する義務を感じない」
ナルは何がなんでも自分から何かを言うつもりはないのだろう。
ただ無言で話を聞いて、ぼーさんから返答を求められても答えることがない。
「ちょっと待ってよ。なにもホテルに住んでまで東京に足場を置かなくたって、自宅を拠点に捜せばいいじゃない。日本全国を飛び回ってたんでしょ?だったらその方が合理的だし、安上がりだわ」
「まあな。たけどもし自宅から北海道に行く方が東京から北海道に行くよりもうんと遠かったらどうする?」
「なによソレ。外国じゃあるまいし」
そこで綾子とあたしと麻衣は動きが止まる。
「……外国──?」
「そういう事だ。補助要因がいくつもある。例えばこいつは格言やことわざに弱いんだよな。漢字にも弱い。調査時のメモやデータの整理にも横文字が多々使われる。日本語を読んでるところは見かけるが──日本語を書いてるのを見たことがない」
「──あ……そういえば最初に会った時、変な答え方って思った」
「あ……」
ナルに初めて会った時、恵子達が『何年生ですか?』と聞いた時に『今年で十七』という変な答え方をしていた。
「だろ?これをさっきの『実は偽名なんじゃないか』ってのと結びつけると、収まるべきところにピタッと収まるんだ。こいつは日本人じゃない」
ぼーさんの言葉に固まる。
ナルが日本人じゃない……その言葉が上手く溶け込まないのだ。