第9章 忘れられた子どもたち
「そうなると、一番の可能性があるのは偶然ってやつだ。けどな、もう一つ引っ掛かることがあるんだよなあ」
「な、なに?」
「最初におれたちが会った時だ。ナルのセリフを覚えてるか?」
『結衣と麻衣の先輩の……』
『あー、麻衣って呼び捨てにした!』
『呼び捨てにしたー』
『お前らもさっきしただろう』
よく覚えている。
というか忘れられるようなものじゃないから、記憶に刷り込まれているようなものだ。
「覚えてるけど……」
「それが、どうしたの?」
「変なセリフだったからさ、妙に印象に残ったんだ。結衣と麻衣は『ナルシストのナル』ってアダ名を呼んだだけで、呼び捨てにしたわけじゃないだろう?」
「「──あ」」
そうだ、あたし達は別にナルを呼び捨てにしたわけじゃない。
ただ単にアダ名で呼んだのだから、あの時のナルのセリフは変だと今更気が付いた。
「で、引っかかったことがもう一つ。何故かリンもナルをそう呼ぶんだよな。おかしくないか?」
「どうして?」
「リンがボスを『ナルシストのナル』なんて呼ぶような性格か?もしも『ナル』ってアダ名が結衣と麻衣の言う通り『ナルシスト』からくるもんだったら、絶対に断固として確実にリンだけは『ナル』とは呼ばないはずだ。違うか?」
「……言われてみれば」
「そう……かも……」
「呼ばないよねぇ……」
リンさんの性格からして、『ナルシスのナル』なんてアダ名では呼ばないのは確かだ。
「まあ、実際のところは本人たちに聞くしかないけどな。それでおれはちょいとした疑問を抱いたわけさ。ひょっとしたら『渋谷一也』ってのは偽名で本名のほうが『ナル』なんじゃないか?」
「──……本名のほうがナル……?」
目を見開かせてしまう。
今まであたしは『渋谷一也』は本名だと思っていた。
だけど『ナル』が本名なんて思ったことはなかった……ずっとアダ名だと思っていたから。
あたしは驚きを隠せないままナルを見る。
彼は薄く笑みを浮かべてぼーさんを見ていた。
「……うがったところをついてくるな」
「お楽しみはこれからだぜ?」
ぼーさんは楽しげに笑っていた。