第9章 忘れられた子どもたち
「ですから、どちらになさいますか?ホットにしますか、アイスにしますか?濃さはどれくらいにします?ミルクを付けますか、レモンを付けますか?それともキャンブリックティーかチャイにします?リンゴで香り付けしますか?クッキーとバターケーキどちらになさいます?両方ですか?」
爽やかな笑みでスラスラと言い出す安原さんに、あたし達は戸惑いながら彼を見る。
「ね。こみいってるでしょ?」
ナルはあからさまに不機嫌そうだった。
ご機嫌な安原さんと不機嫌なナル……なんとも言えない空気にあたし達はハラハラとする。
「……なんでも結構です」
あのナルが諦めた。
流石安原さんだとあたし達は拍手をする。
ぼーさんは『ナンパの達人』と麻衣は『流石越後屋』と拍手をした。
結局ナル達にはアールグレイをいれた。
だがナルもリンさんもそれには口をつけようとはしない。
(というか、なんで安原さん二人を呼んだのかな)
不思議に思いながら、あたしは安原さんの様子を見守ることにした。
「オフィスを閉めて、そのあとどうするんですか?」
「それが安原さんに関係あるんですか?」
「え、ありますよ。やだなー、ぼくたち仲良しさんでしょ」
「いつもの冗談でしたら、相手が違いますよ。そういうくだらない話をするために、わざわざお呼びくださったんですか?」
「くだらなくはないですよ。ぼくはだあい好きな渋谷さんとリンさんがこれからどうするのか気にしてるんです」
「ご心配は無用です」
「好意を抱いている相手のことは心配になるものなんですよ」
「それではご好意は無用ですと申し上げておきます」
「ぼくが誰を好きになろうと、そんなのはぼくの勝手です」
二人のやり取りにあたし達は青ざめる。
不機嫌になっているナルと上機嫌の安原さんのやり取りは、どうも怖さがあるものだ。
「ぼくが今後どうするかもぼくの勝手だと思いますが?」
「そ、そんな言い方ないでしょ?みんなほんとに心配してるんだよ」
ナルの言い方に腹を立てたのか、麻衣が食ってかかった。
「野次馬根性という言葉もあるな」
そのナルの言い方が麻衣の逆鱗に触れた。
あたしは『触る神に祟りなし』と触れないことに決めた。