第9章 忘れられた子どもたち
「いいねえ。懐かしいだろうな」
ぼーさんの言葉に首を傾げる。
「……懐かしい?」
「……何で懐かしいの?」
「おれ、小さい頃よく行ったもん」
「滝川さん家ってお寺じゃないんですか?」
「いーじゃん、べつに。日曜学校行くと聖書物語の紙芝居があって、お菓子くれるんだよなー」
お寺の息子のくせに何してんだ。
しかもお菓子目当てだろうと笑い飛ばしてしまう。
(これでおしまいなのかな……)
東京に帰って解散したら、こうやって皆と笑い合うのは無くなってしまうのだろうか。
『別れのない人間関係はない』
ぼーさんの言うことは分かる。
だけどこれでお終いなのは、なんか嫌だと思っていれば麻衣とあたしは黙りとしていた。
「どうしたー?二人とも大人しくなっちゃって」
これで終わりなのは嫌だ。
そう思ったあたしは麻衣の肩を叩いて、小声で囁いた。
「連絡先、聞こう」
「……うん!」
麻衣は自分のリュックからメモ帳とボールペンを取り出す。
「──連絡先、教えて!」
「は?」
「ぼーさんたちの連絡先、あたしと麻衣に教えてほしいの!」
「あたしと結衣、これでみんなとお別れなんてやっぱり絶対にイヤだ!オフィスも調査の依頼もなくたって皆に会いたいもん!時々こうやって会ってお喋りしたり、会えなくても電話で『元気?』って聞いたりしたいもん!」
「だから、もしイヤじゃなかったら皆の連絡先をあたし達に教えてください!」
あたしと麻衣は勢いよく頭を下げた。
(もし、嫌だって言われたらどーしよう……)
そんな風に思いながら、緊張してしまっていたらぼーさんの声が聞こえた。
「──べつにかまわねぇけど」
「「ほんと!?」」
「お、おう。深刻な顔して何を言い出すかと思えば。なあ?」
「ですよねぇ」
「アンタ達のもちゃんと教えなさいよ?」
「「うん!」」
ぼーさん達にメモ帳を渡してから連絡先を書いてもらう。
色ペンやボールペンなどを渡せば、皆は連絡先を書いたり落書きをしたりと遊び出す。
書き終えてからメモ帳を見て、あたしと麻衣は吹き出す。
安原さんのメモが面白すぎたのだ。
『あかるいテレフォンボーイが、いつでもおまちしております』