第9章 忘れられた子どもたち
「まー、なんにしても今回も無事に終わってよかったわ。これで結衣と麻衣もこの業界から足を洗えるじゃない」
綾子の言葉でナルが三日前に言った言葉を思い出した。
『あのオフィスは戻り次第閉鎖する』
突然の言葉だった。
思いもしなかった言葉であり、言葉を失ったものだ。
「……あー、それは助かるかも」
「そうだね……」
「そしたら新しいバイト探さなきゃなあ」
「確かに」
「アタシの助手に雇ってもいいけど。渋谷サイキック・リサーチほどはバイト料でないわよ」
有難い言葉である。
だが綾子にこき使われるのはゴメンだなあと思ったが、言ったらうるさそうなので黙っておく。
「うちは特別に良かったもんね」
「オフィスが閉まったら、時間もいっぱい出来ちゃうなあ。いくつか掛け持ちでやろうかな」
「そういや、お前ら前はどんなバイトやってたんだ?」
「あたしは特になんにも。結衣はバイトしてたけど」
「飲食店のバイトしてたよ」
だけど短期間の雇用だったから、そう長くはやっていなかった。
(そういえば……SPRでバイト始める前は、学校の他はどうやって過ごしてたっけ……)
バイトをやめた後、麻衣とどうやって過ごしてたっけ。
そんなふうに思っていれば、ジョンが話しかけてきた。
「結衣さん、麻衣さん」
「あ、はい?」
「どうしたの?」
「時間があるんやったら、今度教会の日曜学校にきてみませんか?」
突然のお誘いに麻衣と目をぱちくりさせた。
日曜学校といったら、聖書を読んだりするのだろうけれどあたし達はそれは出来ない。
「で、でもあたしと結衣、聖書とか読んだことないよ」
「どうせほとんど遊びですよって。いつもはボクが面倒を見てるんですけど、やんちゃなお子ばっかりで楽しいですよ」
それならあたし達も出来そう。
なんて思っていればぼーさんが吹き出した。
「なにー?」
「なに笑ってんのさ」
「いやー、どんなか想像できるんで。ジョンの保父さん」
ぼんやりと想像をしてみて吹き出した。
似合うと麻衣と綾子と笑ってるけれど、ジョンはキョトンとしている。
「日曜学校かー」
「ハイ。よかったら滝川さんも来てください」