第9章 忘れられた子どもたち
「……でも、バスにのるのやだな」
小さな子が不安げに呟いた。
「大丈夫だ、バスは使わないぞ。みんなで歩いていくんだ。さあ、行くぞ。小さな子は上級生と手を繋ぐこと。よそ見して遅れちゃダメだぞ」
子供達は嬉しげに走りながら草原へと向かっていく。
ある子は一人で走っていき、ある子は小さい子の手を繋いでから教室を出ていった。
途中、マリコちゃんがあたし達に手を振るので手を振り返す。
「ほら、あやのも行こうな」
「はあい」
手を繋いでいたあやのちゃんの手が離れて、桐島先生と手を強く握っていた。
「おねえちゃんたち、ばいばい」
「……ばいばい」
「ばいばい」
桐島先生はこちらに頭を下げると、そのままあやのちゃん共に教室を出ていく。
そしてゆっくりと扉が締まり、教室の中にはあたしと麻衣だけとなった。
ゆっくりと頭をあげる。
涙が溢れてしまうけれど、それを止めずにただ泣いた。
辛いわけじゃない……ただ涙が止まらなかっただけ。
「……窓、空くかな」
「試してみようか」
あたしと麻衣は小さく笑いながら涙をふいて廊下に出る。
そして閉ざされた窓を引っ張るとギシギシという音が聞こえたが、力いっぱい込めるとすんなりと窓は空いた。
ふわりと優しい風が頬を撫でる。
月明かりが差し込んでいて、外は優しい光に包まれていた。
「……へへへ……。やっ!」
「あ、麻衣!危ないでしょ!!」
麻衣は窓枠によじ登ってから外へと飛び出してしまう。
それに苦笑しながらも、あたしも窓枠によじ登ってから窓から飛び出した。
「結衣だってしてるじゃーん」
「あたしはお姉ちゃんだからいいの」
「なにそれー!」
ケラケラと笑いながらあたしと麻衣は校舎を見る。
「「おーいっ!!」」
校舎に向かって叫ぶと、それと同時に二階の窓が派手に音を鳴らしながら粉砕して落ちた。
「──あっれー?」
二階の窓からぼーさんが身体を出す。
「ぼーさーん!」
「おーい、ぼーさーん!!」
「結衣……」
ぼーさんはあたしの名前を小さく呟いてから、何やら考え込み出した。
「どうしたのー?」
「年齢のと形式の問題について考えてる」
「なにソレー?」
「どーいうこと?」