第9章 忘れられた子どもたち
「うん」
「お名前は?」
「すぎうら あやの」
いつの間にか子供の姿は、餓鬼の姿から普通の女の子の姿になっていた。
「あやのちゃん、お父さんとお母さん好きでしょ?」
「すき」
「あたしも麻衣も仲間が好き。あやのちゃんと一緒」
「いっしよだね」
「先生は好き?すごく優しい良い先生だもんね」
「うんっ、だーいすき」
頷いた彼女の顔は優しい女の子の微笑みだった。
「でもおこるとこわいんだよ。それでね、てつぼうがすごくじょうずなの。でもちょっとオンチなの」
「そっかあ」
「先生オンチなんだ!」
思わず麻衣と『ふふ』と笑ってしまう。
「みんなも先生好き?もし先生がいなくなったら寂しくない?」
「……うん」
「いなくなっちゃダメ」
席に着いた子供たちに月の光が注ぐ。
「そんなふうに転校生の皆にも寂しがる人がいたの。みんな、寂しかったら『遊ぼ』って新しいお友達を連れてきちゃったんだよね」
「でも、その子達にも皆のように大好きな先生がいたの」
「ね、皆は桐島先生やここにいるお友達の他にもクラスが無かったら寂しい?」
「そんなことないよ」
背後から声が聞こえ、振り向いてみるとそこにはツグミくんがいた。
あたしと麻衣は顔を見合せて微笑みながらツグミくんの頭を一緒にグシャグシャと撫でる。
「偉い!」
「えらいっ。男の子だなー」
「うん」
ツグミくんに笑いかけながら、あたしは桐島先生へと視線を向けた。
もう鬼の姿じゃない、俯いた少し寂しげな先生の姿だ。
「みんな、すごく先生の事が好きなんですね。生徒を大好きな先生がいて、それっねすごくいいなって思います」
「すごく素敵な事です」
「……ひょっとしたら、ぼくは大変な幸せものかもしれないですね」
「……はい」
「そうですね」
頷いた時だった。
背後から温かい光が差し込み、驚いて振り返ればすぐ後ろにある教室の扉が開いていた。
その隙間から温かい優しい光が漏れてきている。
教室の外には暖かい太陽が差し込む草原が続いていた。
それを見た子供たちが『わああ』と小さな声を上げる。
先生はそれを眩しそうに見ながら、教室を見渡した。
「……みんな、遠足のやり直しをしようか」
「ほんとう!?」
「うん、ほんとうだ」