第9章 忘れられた子どもたち
突然の悲劇だった。
悲しい心が作った寂しい学校に、寂しい子供たち。
寂しいから学校が生徒でいっぱいになればいい。
もう新入生はいないから、転校生をせめてと。
寂しくて寂しくて餓えて餓えてしまって……だけど、これはダメだ。
「……桐島先生、もう辞めてください」
「そうです……やめてください」
あたしと麻衣は椅子から立ち上がると、桐島先生の元へと向かった。
「校舎がいっぱいになっても寂しいのはとまらないんです。みんなが寂しいのは生徒が少ないからじゃない。もう生きてないからなんです」
「──なにを言ってるんだい?」
「みんな死んでるんです、もう。遠足の帰りにバスが事故にあってみんな死んでしまったの。忘れたフリをしたってみんな覚えてる。だからいつまでも辛くて寂しいの」
「こんな小さな子供たちが突然死んでしまって、そんなの無かったことにしまい先生の気持ちは分かります。けれど、こうしている限り辛いままなの」
「連れてこられた転校生だって同じように辛い──」
「谷山さんたちは、ちょっと変な子たちだね」
全然伝わっていない。
そう思っていると、麻衣が叫んだ。
「みんなも思い出して!こわい事故があったの。それでみんな死んでしまったの!」
麻衣の言葉に、小さな男の子が泣き出した。
「イヤなこと言ってごめんね。でもつらいでしょ?悲しいでしょ?辛くないようにするには橋の向こう側に行くしかないの。お友達を増やしても辛いのは無くならないのよ」
徐々に泣き声が増えていく。
教室中に『痛いよ』『せんせい』という声が響いてくる。
その光景に胸が痛むけれど、仕方ないのだ。
「酷いことをする子だね、君たちは。みんなこんなに泣いて可哀想じゃないか」
「このままの方が数倍可哀想じゃないですか!」
桐島先生に突っかかるようにあたしは叫ぶ。
「家にも帰れないで、家族にも会えないままここに居続ける方がずっと可哀想だよ!」
「この中でおうちに帰った人いる?お母さんやお父さんに会った人は?」
「……おかあさん……?」
「おかあさあん……」
「おうえにかえりたいよう」
泣き声が強くなってきた時だった。
突然桐島先生が叫んだのである。
「ウソだ!死んだなんてウソだ、信じるんじゃない!」