第9章 忘れられた子どもたち
肩の力を抜いたら足の力を抜く
手足の力を抜いたら今度は腰から順番に胴の力を抜いていく
倒れそうになったら倒れてもいいから、首の力まで抜いて全身の力が抜いたら──
桐島のことを考える
ぼんやりと意識するだけでいい
上手くできないなら控え室の鬼火のことを思い出すんだ
桐島という文字を思い浮かべるのでもいい
(桐島先生……)
ふわりと身体が浮き上がる感覚を覚えた。
そして身体が横に投げ出されたような衝撃があり、全身が痛んで息を飲む。
(失敗しちゃった……?)
恐る恐ると目を開ければ、そこに広がるのは闇。
真っ暗な世界であり、あたしは困惑しながら当たりを見渡せば隣に同じように困惑した表情の麻衣がいた。
「ま……」
麻衣と呼ぶ前に声が聞こえた。
か細い泣き声であり、何処からしてるんだろうと思っていれば徐々に周りの景色が変わる。
周囲にはシートが並んでいて、バスの中だと気がつく。
あちこちが歪んでひしゃげていて、窓ガラスが割れていて大きく傾いている。
シートも傾いていて、折り重なるように横倒しになり押しつぶされた車体がのしかかっている。
「せんせえ……」
「いたいよう」
「せんせえぇ」
細い悲鳴と泣き声。
「……マリコ」
悲鳴と泣き声の間に、男の人の声が聞こえた。
「ツグミ、タカト、アイ。みんな大丈夫か?」
一番前の座席の下から男の人が身を起こして、近くに倒れている子供の体を抱き寄せている。
「どうした、返事をしろ、大丈夫か!?なあ、おおい。返事をしてくれよぉ」
あたしはその場に崩れ落ちそうになる。
涙が伝ってきて、嗚咽が漏れそうになってしまった。
「ミカ、マサミィ──」
名前を呼びながら彼は子供たちを抱き寄せる。
皆はピクリとも動かず、返事もしない。
「……どうして……なんだ。どうしてこんなことが……!」
その声に顔を覆う。
するとカチリとガラスを踏みつける音が聞こえ、あたしは顔を上げた。
「──帰ろうな、学校に。帰って手当てして、そしたら、なんにも心配することないからな」
視界がぼやける中で、ぽっかりと空いた暗い穴に向かって子供たちの手を繋いで歩いている彼がいた。