第9章 忘れられた子どもたち
暗闇の教室にいた。
ぼう……としていれば、左手で繋いでいた麻衣の手がピクリと跳ねたのを感じる。
「ナル……?」
ぼんやりとした声で麻衣がナルを呼ぶ。
「麻衣、起きた……?」
「うん……あたし、また夢を見たんだ」
ぽつりと呟いてから麻衣は右手を見て、軽く目を見張ってからその手を握りしめた。
「夢じゃない……」
「麻衣?」
「本当にナルと会ってたんだ。さっきまでここにナルが来てた。あたしや結衣がああやって身体を抜け出せるなら、ナルにだって出来るかもしれないじゃない」
その言葉にあたしは妙に納得した。
ナルはあたしや麻衣にトランス状態に入れるよう暗示をかけてくれるはずだった。
だけどバラバラになったから出来なかったから……。
「ナルは体を抜け出して、あたしと麻衣がトランス状態に入れる方法を教えてくれたんだね」
「うん。そういえば、以前真砂子が霊に捕まった時あったでしょ?その時真砂子が『ナルがここで励ましてくれたの』って言ってたでしょ。あの時もきっと本当にナルが励ましに行ってたんだよ」
嘘みたいだな。
そう思いながらも、あたしは夢の中で見るナルを思い出す。
現実とは嘘みたいに優しくて困ってしまう。
(夢の中のナルはナルじゃないみたい……)
まるで別人のようだ。
そう思っていると、隣で麻衣が呟いた。
「ナルが好きだなあ……」
あたしはその言葉に苦笑する。
だがいつもみたいに『趣味が悪い』とは言わず、ただ麻衣の手を握るだけだった。
(好きって気持ちは強くなるものだよね……)
あたしは脳裏にぼーさんのことを思い浮かべる。
優しくて大雑把な所もあって、口が悪いところもあって……でも誰よりも仲間思いの人。
(ぼーさん……好きだよ)
いつか、この気持ちを伝えれたらいいな。
「結衣、やろう」
「うん」
あたしと麻衣は手を繋いだまま目を閉ざした。
そしてナルが教えてくれたトランス状態に入る方法を試す。
『──全身に力を入れて、うんと緊張して身体を縮める』
ゆっくりと息をしながら自分がどういうふうに呼吸をしてるのか意識を向けて、呼吸を数える
吸って吐いてを三回繰り返したら、まず手の指の力を抜くんだ
三回ごとに少しずつ力を抜いていく
指の次は手首
次は肘