第9章 忘れられた子どもたち
「するとその分、さらに重くなって沈むからいっそうプラスの粒子ははじき出されやすくなって──やがてマイナスの粒子だけになってしまうんだ」
「それが悪霊?」
「──うん。彼らはみんな死にたくなかった。だから死んでしまった事実を受け入れることが出来ない。怖かった、悲しかった、そして今寂しくて辛い。この世に留まっていても少しも満足出来ないでいる。もうこの世は彼らのものじゃない。この世にあった喜びは二度と手に入らない」
「……可哀想……」
ここにいる桐島先生や子供達は、マイナスの『気持ち』が多すぎて沈んでしまっているんだ。
「彼らを救うために必要なことは光を──プラスの『気持ち』を吹き込んであげることだ。そうするとその分軽くなって昇っていける。昇ったぶんだけプラスの『気持ち』を取り込みやすくなる」
「でも……どうやって?」
「どうやって吹き込んであげるの?」
「まず第一に、麻衣と結衣自身が光になることだ」
あたしと麻衣が光になる。
その言葉に少し目を見張っていれば、ナルは小さく微笑む。
「プラスの『気持ち』は温かい優しい感情のことだ。同情でも哀れみでもいけない。本当に純粋に優しい気分で相手に語りかける。そうするとプラスの粒子が言葉と一緒に放出さていくんだ」
「難しいね……」
「うん……」
「少しも難しくない。凄く素直に優しい気分でや暖かく思った時のことを思い出せばいいんだ。そういう気分になれない人もいるけど、麻衣と結衣は違う。──だろう?」
「そうかな」
「違うかな……」
「生きたままマイナスの場に沈んでいる人もいるんだ。本当は『霊』のありかたに生死は関係ないから。けれど生きてる人の『自我』は厚い。だからこちらがいくらプラスの粒子を放出しても中々相手の内部に届かない。生きてる人を救うことが難しいのはだからだね」
「死んだ人の『自我』は薄い?」
「とても薄い」
ナルはしゃがみこむと、あたしと麻衣の手に触れる。
「自分たちを信じて。絶対にできる」
「……うん」
「……ありがとう、ナル」
お礼をいうとナルは微笑む。
そしてあたしと麻衣の手をトンッと叩き、彼の姿が薄くなっていく。
ふと我に返った。
ピクリと手が震えて、あたしはゆっくりと瞼を押し上げた。